もはや「点字図書館ではない」− 視覚障害者情報提供施設の歩むべき道 − (シニアメンバー版10年ビジョン) −− 内容 −−  はじめに  1. もはや「点字図書館ではない」   点字の図書館というイメージからの脱皮   点字図書館は図書館なのか福祉施設なのか   「点字図書館」という名称が利用者を遠ざけている事実  2.視覚障害者に「必要なサービス」とは何か   A 図書館事業   B 支援事業   C 啓発事業  3.施設が「必要なサービスを提供するため」の課題   A ボランティア   B 対価を支払う協力者の確保   C 職員の資質向上と人材の確保  4.施設が「必要なサービスを提供するため」の事業継続とは   A 対象者の拡大   B 収益事業の拡大   C 関係機関への積極的なアプローチ   D 災害時に備えて  5.おわりに  検討メンバーおよび検討会議 −−(内容 終わり)−− はじめに  失明によって閉じられた文字情報の世界への扉を再び開くために、視覚障害当事者が自ら立ち上げた点字図書館は、長い歴史を重ね、今日に至っています。そして、一般社会のコンピュータの発達とインターネットを軸とする情報網の進化はさらに加速しており、視覚障害者等への情報提供を担う施設・団体は新たな役割が求められている状況にあり、そのことを今回「もはや点字図書館ではない」という言葉で表現しました。ただし、この言葉は今生まれたものではなく、10年以上前から語られており、すでに多くの施設がそれまで使っていた点字図書館という名称から新たな施設名に変更しています。  情報提供施設が抱えている課題の解決には、これまで蓄積してきたノウハウやネットワークに最先端の情報システムを組み合わせることが必要であると考えてきました。そこで、私が理事長に就任した4年前に、一般社会との情報格差を縮めることを目的とし、今後取り組んでいく事業、担う役割を未来思考で検討するために「10年ビジョン会議」を立ち上げました。第一期は全国の各ブロックから現場の若手メンバーを中心に構成し現状と先端機器の情報整理を行い、今期は私自身がさまざまなことを教わってきた先輩の方々を中心にメンバーを構成し、10年ビジョンの現時点での取りまとめを行いました。4年の取り組みを通して再確認したことは、私たちの組織・団体は、何のために、いつ、誰が、どうやって立ち上げたのかという原点、そして、今、私たちは、誰のために、何を、どうしていくのかを考えていることの重要性でした。特に、人口減少と高齢社会の中で、利用者が必要としている情報の製作と提供の新たな体制と方法。  全国各地の現場で、視覚障害者等への情報提供に日々従事している方々にとって、ここで述べるシニアメンバー版10年ビジョン(以下、10年ビジョン)は、 「そんなことはできるはずがない」「ビジョンには共感するが、現実的には難しい」という意見もあるでしょうし、また、「そのビジョンには賛同できない」というご批判もあるかもしれませんが、点字図書館の原点に今一度立ち戻り、それぞれの地域、そしてそこで活動する施設にとっての10年後を考えていただくきっかけになれば幸いです。本報告書の前に、10年ビジョン第1期で取りまとめた「2025年のわたしたちへ」があります。ここでは、情報提供施設の現状や課題、ITの環境などについて整理し、今後の視覚障害者の情報入手環境向上への可能性について触れています。この報告書と今回の報告書は1つのセットであり、それを合わせて読みながら、各地の10年後のビジョンを職員で議論し描いていただくことが、利用者の情報環境の向上につながっていくと考えています。  情報の高度化、個人化が進み、各施設・団体に求められる要求は今後さらに多様化していくことが予測されます。しかし、その一方で、予算と人員は限られており、その状況下での取り組みには自ずと限界があります。しかし、見えない・見えにくい人を取り巻く情報環境を向上させていくには、その施設・団体で働く私たちの意識と行動が重要であり、皆さんの前向きな思考と行動に期待を持ち、これから先も必要不可欠な施設・団体として存在してほしいという願いを込めて、本報告書の「はじめに」の言葉を締めくくります。     全国視覚障害者情報提供施設協会 理事長 後藤健市(2017/03/31) 1.もはや「点字図書館ではない」  はたして点字図書館は、対応を必要としている多くの視覚障害者に利用されているのであろうか。残念ながらノーと言わざるを得ない。その要因は、点字図書館が何をする施設であるのかが正しく理解されていないことと、その存在の認知度は決して高くないことから、本来利用できるはずのサービスにたどり着いていない人が多いのが現実である。この反省から、視覚障害者情報提供施設を正しく理解してもらうためにはどうすべきかを考える必要がある。  なお、もはや「点字図書館ではない」と表題に掲げている一方で、本ビジョンでは「点字図書館」という表現を多用しており、矛盾した印象を与えているかもしれないが、内容を伝えやすくするための便宜上の手法であることをご理解いただきたい。 ●点字の図書館というイメージからの脱皮  今や点字図書館という名称と現実の事業内容のかい離が大きく、もはや「点字図書館」の名称を継続するには無理ある。我が国に点字図書館が誕生した時代背景を考えると、視覚障害者の知の宝庫としての点字図書館は必要不可欠な存在であった。しかし、時代の移り変わりとともに、求められる役割は変化してきている。現在、図書館としての機能だけでは利用者のニーズを受け止めきれない。  実は、「もはや点字図書館ではない」ということには目新しさがなく、これまでも同様の表現が表れては消えてきた。この辺で、この議論に終止符を打って次の段階に進みたいという気持ちを込めての10年ビジョンであることを申し添えたい。  新たな時代は、新たなサービスを要求している。従って、まず点字図書館という名称が与えるイメージからの脱皮が必要である。ただし、この考えは、本来の点字図書館業務を疎かにするということではない。役割が終わったとの誤った受け止め方により、経費削減の口実に使われないよう十分な配慮が必要であり、むしろ現行の図書館事業にプラスした形で新たなサービスが求められていることを十分に理解してもらったうえで、時代に合わせたサービスの実現に対しての経費の上乗せを認めてもらうよう働きかける必要がある。  点字図書館が変わらなければならないのは、名称だけではなく事業の内容である。「何ができるか」ではなく「今、何が求められているか」「視覚障害者の専門施設として何をしなければならないか」という施設本来の役割をしっかりと受け止める必要がある。 ●点字図書館は図書館なのか福祉施設なのか  名称が示すように、その起こりは図書館としての役割が大きかった。しかし、公共図書館における障害者サービスの充実を見据えると、圧倒的多数の公共図書館と都道府県単位に1館から数館しか存在しない点字図書館の並立運用は、社会的に現実的なのだろうか。今後は、著作権法の改正と障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(通称:障害者差別解消法)施行を受けて、視覚障害者への図書館サービスは公共図書館の障害者サービスで対応するという流れが加速すると考えられる。従って、点字図書館は視覚障害者専門図書館として培ったノウハウと製作力を生かしながら、公共図書館との連携と役割分担が必要となる。  これからの点字図書館には公共図書館では対応しきれない福祉施設としてのサービスの充実がますます求められるようになる。ただし、前述の表現と矛盾するようではあるが、公共図書館においても経費削減はじめ効率的運営が求められている中にあって、障害者サービスに積極的に力を入れることは考えにくい。点字図書館が意識的に動かなければ大きな変化にはつながらないであろう。 ●「点字図書館」という名称が利用者を遠ざけている事実  「点字は読めない、必要ないから関係ない」「本を読むのが好きではない」「生きていくうえで、図書館は役に立たない」等々、点字図書館=点字の図書館という名称からのイメージが、利用者を遠ざけてきた要因の一つになっている。それが、見えない・見えにくい人の利用の第一歩を阻害してきたといっても過言ではない。それにより、その先にある様々な情報提供はじめ有効なサービスにたどり着けていないという例が少なくない。あえて言うならば、点字図書館の事業が正しく理解されていないことが、見えない・見えにくい人を遠ざけ、結果としてその人の充実した人生を妨げることにつながっている。  点字図書館という名称が、無意識のうちに「見えない・見えにくい人」が豊かな社会生活を送る上での障壁となっているのであれば、その先を見据えた現実的な名称についての検討を行う必要がある。その名称は、より多くの利用者が有効なサービスに結びつくような配慮が必要である。  ここまで書くと、「点字図書館」の名称を「視覚障害者情報提供施設」「○○視覚障害者情報文化センター」「○△情報センター」のように変更すれば問題は解決すると受け取られるかもしれない。しかし、単に名称を変更しただけで利用者数が大幅に増えるということはありえない。むしろ名称変更を機に、事業内容が正しく伝わるように施設の存在の積極的アピールが必要となる。 2.視覚障害者に「必要なサービス」とは何か  視覚障害者情報提供施設は、視覚障害者の専門図書館としての図書館サービスのほか、その延長線上にある相談機能の強化、自立訓練、IT時代への対応、啓発事業の推進など、総合的福祉サービスが求められる。これらのサービスは大きく3つの事業、「図書館事業」「支援事業」「啓発事業」に分けられる。(図01) (図01 省略) A 図書館事業  全国的規模の具体的取り組み例としては、それをリードしてゆく「センター館」が必要となる。ここを中心として、機能を集約し、業務効率とネットワークの強化を図りながら、選書システム、製作協力、デポジットライブラリ構想など未来にむけてのサービス提供ができる仕組みとして、図書館事業を再編してゆく必要があり、センター館構想は各地の情報提供施設不要論ではなく、全国の施設が有機的に結びつくために必要と考える。 2A-(1) 各都道府県並立に伴う非効率な運営の現状  厚生労働省(厚労省)指定の視覚障害者情報提供施設は全国に72か所あるが、厚労省委託製作図書をはじめとして同じ図書が配本されている。従って、どこでも同じような蔵書構成となる傾向がある。各施設は、製作できる能力に限界があるため特色ある蔵書構成を図ることはなかなか困難な状況である。まして、サピエを中核として相互貸借が一般化した状況の中で、これだけ多数の施設が独自に事業運営を行うのは、全体として見たときにたいへん効率が悪いということになるのではないであろうか。  『市民の図書館』(日本図書館協会 1970)には「図書館はある水準以下の経費では、常に悪循環を繰り返すことになり、非常に多くの無駄が生まれる。水準以上になって始めて図書館としてのサービスが可能になる。」と書かれている。ここで言う「経費」とは直接的には年間増加冊数のことである。全国の視覚障害者情報提供施設の蔵書数を合計することでやっと公共図書館並みの蔵書数になる。本来ならば、施設全体が有機的な連携をとり、一つの図書館として機能できていればよいが、地域ごとの状況の違いもあり残念ながら統一された意思のもとで図書館サービスが提供されているわけではない。言ってみれば、分館ばかりで本館がない状態である。小規模の図書館においては、限られた製作能力の中で、有効に図書を利用してもらおうと思えば、どうしても蔵書構成が文芸書に偏ってしまうのは必然である。 2A-(2) 選書システムの必要性  ネットワーク時代においても、上記のような各館独自の運営を続けてきた結果、サピエの蔵書を見ても解るように、図書館全体として、専門書・古典が不足し文芸書に偏っている。話題の文芸書は割と早く製作されるようになってきた。しかし、極端に文芸書に偏ってはいないであろうか。墨字の出版では文芸書の比率は約20%だが、サピエでデータアップされる音訳図書での文芸書の比率は60%を超えている。話題の本はあるが、仕事で必要となる本、学習のために必要となる本が不足しているのではないか。  各事業所に選書を任せ、早い者勝ちで製作している状況ではこの偏りを是正することは困難である。この背景には指定管理者制度の下での評価を上げたいという事業者側の意思と点訳者・音訳者に選書の主導権があることが影響しているのかもしれない。  利用者に信頼される図書館になるためには、利用されることが少なくても必要とされる図書を計画的に製作していくことが求められる。 2A-(3) 図書館サービスの再編:センター館設置の必要性  これら、図書館としての機能を管理、維持してゆくためには、専門職員が必須である。しかし、図書館事業の規模から考えても、各施設に人員を配置するのは現実的ではない。従って、各施設の図書館機能を管理するためのセンター館を設置する必要がある。この施設にはサピエの維持管理、全国図書館サービス計画の作成、選書、デポジットライブラリなどの管理運営の役割が期待できる。サピエは有効なツールとして成長してきたが、全国的視野で将来を見据えた図書館サービス計画を立てる必要がある。委員会形式での運営では機動性に欠け、どうしても責任の所在があいまいになってしまう。ほんとうの意味での視覚障害者への図書館サービスを企画し、サピエを中核として全国の図書館が一つの図書館として機能することが必要である。このためには拠点となるセンター館の設置が必要となる。  センター館は、既存の施設の一つがその役割を担うこともできる。ただし、そこには公共図書館と良好な関係を築くためにも、図書館としての専門性を持っていること、それらの実績が全国の視覚障害者情報提供施設からの信任が得られるレベルであり、かつ経営的な安定があるなどの資質が求められる。 2A-(4) センター館の機能:デポジットライブラリ(注1)の必要性 (注1)デポジットライブラリ:図書館の書庫のスペースに限界があるため所蔵が困難になった図書等を一ヶ所に集め、共同で保存する仕組み。  サピエにデータはあるが、貸出し用の図書がない。とくに点字図書に顕著だ。リクエストにより製作したが、リクエストした人以外の利用が見込めず、提供した後に図書館資料として所蔵するのではなく、データのみをサピエにアップしているということはないか。データをアップしてもらうのはありがたいことだが、それぞれの地域の図書館でも利用の限定された点字印刷(プリントアウト)は各施設にとっては負担となる。まして、点字プリンターを持たない公共図書館等では提供することができない。データアップした図書館が責任をもって貸出し用の図書を所蔵するのが原則だが、強制力がない現状ではこのようなことも起きている。また、限られた書庫スペースでは管轄地域の少ない利用者のために現物を所蔵し続けることは現実的には重い負担になってくる。貸出し用の図書を所蔵するのが負担となり、点字図書の製作を抑制したりデータアップさえためらってしまうようでは本末転倒である。  データはサピエに保管するとしても、貸出し用の図書を集中して所蔵するデポジットライブラリの必要性がある。ただし、全国の施設に替わって所蔵するのであるから何らかの支援が必要である。 2A-(5) 図書館サービスの再編:適切な利用相談窓口の設置  このように、センター館が図書管理の業務を担うことができれば、各施設は、より細やかな、かつ利用者が必要とする「図書館サービス」の提供に徹することができる。  現状の体制では、図書館事業において、リクエストされた指定の図書を貸出すだけではなく、適切な図書館資料の利用への案内ができているであろうか。図書館員としての資質が問われるところである。コミュニケーションを十分にとれる場所に窓口があることが望ましく、視覚障害者の状況を理解し、図書館資料に精通した図書館員が必要である。図書館員としての専門性の向上は一朝一夕に成すことは困難であり、現状の視覚障害者情報提供施設だけで窓口を担当するのは難しいことかもしれない。  視覚障害者情報提供ネットワーク「サピエ」は視覚障害者への図書館サービスにとって必要不可欠のインフラとなっている。これをさらに発展させ、安定的に維持していくことが今後も必要である。しかし、サピエの有効性が際立つ中で、従来からの発想での事業運営の課題が次第に明らかになってきており、具体的な事項について考えてみる必要がある。 2A-(6) 図書館資料の製作  当然のことながら図書館サービスは視覚障害者が利用することが前提であり、図書館資料は図書館の責任により収集・製作されるものである。図書館サービスが、点訳者・音訳者の製作能力によって規定されるのでは本末転倒だ。今後確実に視覚障害だけではなく、「視覚による表現の認識に障害のあるもの」(著作権法)を対象とする必要性が出てくる。これは点字図書や録音図書だけではなく、多様な障害者へ、多様な図書館資料を用いて図書館サービスを実施する必要が出てくるということである。しかし、個別の図書館がそのすべてに対応していくのは負担が大きく、地域による格差の発生も予想される。  従来ほとんどの図書館では、図書館事業の中核であるはずの資料製作を無償のボランティア活動に依存してきた。今後多様なメディアに対応する必要が生じ、資料製作にはますます専門的な知識・技術が必要となる。多様な資料製作を安定的に確保していくためにはこれらの協力者の「職業化」が必要と思われる。製作協力者の養成は、利用者の必要性に応じて企画される必要があり、多様なメディアに対応していくためには、地域ごとの役割分担が必要となる。 2A-(7) アクセシブルメディアセンター  平成28年に施行された障害者差別解消法により、それぞれの障害に応じた合理的な配慮が公的機関での義務になり、民間事業所でも努力目標となった。法律に明文化されたことの意義にはたいへん重いものがある。しかし、視覚障害者にとって、身近にメディアを変換する事業所がなければ、現実的な対応は担保されない。また、それぞれの責任において実施されている事業にボランティア活動が対応するのでは法の趣旨に反する。それぞれの事業所の責任において、メディアの変換作業は実施される必要がある。  各地の視覚障害者情報提供施設は、自治体や各種事業所より依頼を受けてメディアの変換事業を実施できる施設であり、今後は収益事業として成り立つ可能性を含んでいる。 2A-(8) レファレンスサービスの充実  墨字資料に乏しい点字図書館だけで対応するのではなく、地域の公共図書館と連携してレファレンスサービスを行うことで、質の高いサービスが期待できる。利用者から相談があったとき、公共図書館に調査の協力を依頼し、回答の点字化、音声化作業を点字図書館で行うことで役割の分担を図る。  今ではインターネットを通して、公共図書館のレファレンス事例なども公開されており、それらの活用も出来るのではないであろうか。 参考資料や辞書類は、紙媒体だけではない。電子辞書やインターネット辞書・事典検索サイトなどの活用による効率化を図っていく必要がある。点訳、音訳の墨字原本は画像データーとして保存を行うことにより、資料の内容についての問合せや、資料製作の確認、各種問合せなどに施設担当者間で共有するデータとして活用できる。(ただし、著作権法への配慮が必要である)  視覚障害者関係機関の紹介に力を入れていく必要もあり、地域の資源情報、福祉制度情報、医療機関情報等の最新情報を網羅し、いつでも最新の情報を提供できるツール作りが求められる。  サピエのコンテンツ数が増加すればするほど、また利用者の高齢化が進むほど、利用者個人が読みたい本にたどり着く(検索)ことが難しくなり、容易に探し出すことができなくなる。サービス担当職員は図書(資料)の水先案内人として、利用者が図書にたどり着けるように、寄り添って探し出すことを行う。探し出した図書は、例えば利用者のインターネット上の仮想の書棚に配架し、書棚にアクセスすることで簡単に図書を利用出来るようにする。  類似書などの紹介も積極的に進めて行くことが望ましい。サービスとして利用者個人が、自身の利用履歴データを参照できる機能も追加していく必要があるだろう。最終的には相手との対応の中から、ニーズを引き出すコミュニケーション力の必要性は、現在も10年後も普遍的な人間力である。  職員からの情報だけではなく、サピエ上に個人参加の文庫を設定し、推薦に値する点訳・録音図書を集約したセレクト文庫、個人の趣味から集約したお勧め図書の文庫など、利用者参加の情報提供の仕組みを構築することも、利用者と図書を結びつける有効な手段である。 2A-(9) プライベートサービスのメニュー  従来の墨字資料の点字化・音声化だけではなく、映像時代の今を捉えて映画、テレビのドラマだけではなく、見えない・見えにくい人の生活で必要とする映像情報を、プライベートサービス(音声解説)としての対応が求められることになるであろう。  例えば子供の結婚式の映像の解説、運動会の映像の解説、イベント会場での映像解説、外出先での電車内で流されている映像の解説などが考えられる。同行援護従事者が、これらのサービスを提供できるように解説技術の研修などに取り組むことも視野に入れる必要がある。  今後は、2020年のオリンピック・パラリンピックの放送での音声解説など、競技場内での音声解説など、多言語で提供することや、必要なパンフレットの多言語の点字、音声、テキストなどの提供が必要になる。来日された人たちへのガイドヘルプなど、即時対応できるオリンピック観戦にすることで、世界中から視覚障害者が安心して日本に来られる。それに向けての仕組みを設けることも、図書館の使命と考える。  また、触覚で立体物を認識できるようにするために、普及傾向にある3Dプリンターを活用した情報提供もプライベートサービスの新たなメニューとして有効であろう。  結論として、プライベートサービスはメニューを限定するのではなく、利用者から寄せられた要望が、見えない・見えにくい人に必要な支援であると判断できる場合は、そのままプライベートサービスのメニューとして成り立つと考える。 2A-(10) 情報提供の即応性  サピエを通して利用者から要望のあった図書・雑誌等資料の製作や、個々の施設で対応した有益な情報はサピエ上で、利用者、施設、ボランティアが共有できるようにする。  サピエ上で利用者個人が、リクエストを発信し、製作者をコーディネートするサービスシステムに進化させていく必要がある。  サピエのインターフェースも、機器操作のできない人たちが、長期間のトレーニングを行なわなくても使用できるようなシステムに進化させていく。例えば図書の検索など、音声対話で操作を行うなど、高齢化への対応を行なっていく。また出版社との協働を進め、著作物等のテキストデータの提供を受け、即時的にテキストデイジーの製作を進め提供を行う。  また、ワンストップサービスの展開としては、利用登録の一元化が考えられる。Web図書館加盟館の図書であれば地元の登録館を通さなくても、どこの図書館からも資料の直送貸出しが行えるようにする。  このことは、利用者の個人情報保護などの点で解決しなければならない課題もあるが、即応性との接点を求めての今後の検討に期待する。 B 支援事業  視覚障害者が質の高い社会生活を営むためには、見えない・見えにくいことから発生する不便・不自由を軽減する総合的福祉サービスが求められており、従来の図書館サービスに加え、相談事業を入口として、自立に向けての様々な支援が必要となる。 2B-(1) 相談支援事業の強化  見えなくなることで以前のような形での情報入手が難しくなる。もちろん図書の利用も困難となるが、生きていくうえで必要な情報について考えると、現実的には図書の占める割合はそれほど大きくない。情報提供施設として、どのような情報を提供・支援する施設となっていくのか考える必要がある。図書だけで、見えない・見えにくい人への支援が十分と言えないことは誰もが分かっていることである。  今後は、以前からの図書館業務を行う施設であれば良いという発想から離れ、見えない、見えにくい人が生きていくうえで必要な様々な情報(図書を含む)を提供・支援していく施設でもあるという立ち位置にしなければならないのではないか。そのためには、情報の一方的な押し付けではなく、また「持っている情報だけを提供する」という姿勢から、「利用者が必要とする情報を提供する」形に変えていく必要がある。  視覚に障害のある人達へ「必要な情報」を提供するためには、彼らに「何が求められているのか」を正しく受け止める必要があり、相談場面における対応力がこれまで以上に重要となるだろう。現実的には、相談場面での対応の良し悪しが、見えない・見えにくい人の、その先の人生を左右すると言っても過言ではなく、情報提供施設が果たす役割が大きいことを認識すべきである。  公共図書館における障害者サービスは、障害者差別解消法を受けて今までよりサービスの充実を図るであろう。これは当然必要なことであるが、新たなサービスへの負担を懸念することにより、積極的対応に踏み込まないということを避けるためには、視覚障害者情報提供施設から公共図書館に働きかけ、障害者サービス推進のきっかけを作る必要がある。  このような社会状況を鑑みると、視覚障害者情報提供施設としては、公共図書館と区別をするためにも、相談事業をもう一つの中心に据えて事業を展開していく必要がある。情報提供施設は図書の貸出しだけが役割ではなく、地域における必要性を正しく受け止めることができない施設は、大きな流れに飲み込まれていくことになるであろう。ただ、すでに複数の情報提供施設においては、相談を受け対応しているところがあり、地域の中で特化した情報を発信している施設もでてきている。その一方で、良質な情報提供をしているにも関わらず、「相談支援」を事業として位置付けていないために、せっかくの機会・機能を生かすことができていないところもある。  今後は業界をあげて、図書と相談という二本柱を打ちだし、全体の底上げをするために研修等が必要になってくる。ただ基礎的な部分は多くの施設に蓄積をされており、整理をしていくことで多くの施設が新たなスタートを切っていけると考える。  「見えにくくなったら視覚障害者情報提供施設に相談」ということが当たり前になっていくことを望む。 2B-(2) 自立訓練(機能訓練)事業  「自分たちが事業を展開している地域に視覚障害者を対象とした機能訓練の施設があるだろうか?」という質問の答えは「無い」というのが現実である。 実はほとんどの地域にそのような事業を展開している施設が存在しないのが現状であり、リハビリテーション事業を行っている人たちの間では「リハの空白地」という言い方をされている。では空白の地域にその役目を担うところがあるかといえば、これも実は多くはなく、ほぼないというのが現状である。  そのため、情報提供施設が動き出すことで既存リハ施設とのバランスが崩れるという心配はなく、むしろ空白地を埋めることができ、何十年も空白だった地域に支援を受けられる場所ができることになる。  しかし、当然のことながら、相談を受ける=訓練をするということではない。視覚障害者情報提供施設で機能訓練を行うことは遠い先の未来の選択肢としてはあるが、すぐには対応も困難であろう。ただ図書を読むために拡大読書器を使いたい、パソコンを使いたい、デイジー録音図書読書器(プレクストーク等)を使いたい、点字で本を楽しみたい、読みたい等への訓練、技術提供は視覚障害者への情報提供の一環として必要なことである。  そして先に書いたように、各地域にそういうことができるところはほぼない。視覚障害者情報提供施設であるにも関わらず、見えない・見えにくい人に必要な情報が伝えられていないと指摘されたときに、当施設は図書館であって機能訓練施設でないので、それ以外の対応はできませんという返答がいつまで通用するであろうか。  もちろん、あくまでベースは情報提供であり長期の練習・訓練が必要であれば既存の機能訓練・リハビリテーション施設の情報を提供することが必要になってくる。今後は相談をベースに対応する中で、自分の住んでいる地域に近いところで基礎や簡単なリハビリテーション技術の情報も提供できるようになり、既存のシステムとは役割を分担し支援していくことになるだろう。そうすることで機能訓練施設、リハビリテーション施設がない地域においても最低限の情報と訓練体験が可能となり、情報提供施設の地域での存在意義、視覚障害者ヘの支援の幅は広がることになっていく。  例としては、図書利用と直接関係する、拡大読書器の紹介や使い方、ルーペの選定と使用についてのサポートなどがある。現代なら、パソコンやスマートフォンを利用しての読書や検索方法を支援する必要もあるだろう。また、デイジー読書機(プレストーク等)の使い方や点字の読み方などについて、当事者のニーズに合わせて早い段階での支援サービスを提供できるようになっていくのが望まれる。加えて図書館に来館するための歩行の訓練、移動支援の情報提供も重要なサービスとなるであろう。  「見えにくくなったら視覚障害者情報提供施設に相談」に加えて、「見えにくくなったら、視覚障害者情報提供施設で見えにくくてもできること、生活の工夫と便利な機器を教えてもらおう」というのが看板になっていくといいと思う。 2B-(3) IT社会(注2)への対応  (注2)IT社会:ITとはInformation Technologyの略称であり、一般的には情報技術と訳されており、コンピュータやインターネットなどを活用する社会を「IT社会」と称する。  AI(人工知能)の進歩が目覚ましい。視覚障害者情報提供施設が行ってきた作業の多くもコンピュータで行うことができるようになっていく。特に点訳作業についてはルールがしっかりしていればコンピュータの得意とするところであり、大幅な時間短縮につながっていくと思われる。ただ何も働きかけなれば変わることはない。コンピュータ業界と連携し、必要なソフトを作ってもらうような働きかけが重要となってくる。そうすれば、テキストデータがあれば、ほぼ同時に点字データができるという時代になると思う。これは専門家でなくてもある程度のものを作ることが可能となるため、情報へのアクセスはとてもスムーズになると思う。  音訳についても同様で、すでに合成音声での電子書籍が出てきて、増加傾向にある。現在の音声はまだコンピュータの人工的な声という感じだが、徐々により人間の声(肉声)に近くなって聞きやすいものになり、やがては人工音声と肉声の差はなくなるであろう。その際に電子書籍が視覚障害者にも扱いやすいように、今から電子書籍業界と連携し基本的な仕組み作りに関わっていくことも必要になってくる。  これらのシステムは関わらなくても独自に発展をしていくと思われるが、視覚障害者の利便性を組み込むように働きかける必要性がある。そうすることで視覚障害者への情報提供の環境は今よりかなり充実したものになるだろう。これから先は人工音声を避けて通ることはできない時代であることを考えると、肉声と人工音声が反目しあうのではなく、いかに融合し共存するかという視点で考える必要がある。  視覚障害当事者の年齢構成をみると明らかに高齢化が進んでいる。IT機器を使いこなす高齢者がいる一方で、現実的には今までIT機器と無縁だったという人も多いことから、今後は二極化していくことが考えられる。そのため利用者に応じた対応が必要である。  ただし、ある一定期間が過ぎるとパソコン・携帯は当たり前の世代も増えてくるのでIT機器を積極的に活用して情報を入手する、生活を改善するという体制を整えておくことが求められる。  このような社会変化に対して、施設が提供するサービスを充実させるためには、IT支援体制の確立が必須となる。見えていたころにある程度利用経験がある人は、新しい技術、機器がでてきても支援体制があれば継続利用ができていくと思われる。そのために視覚障害者情報提供施設職員が新技術の体験会、講習会を積極的に受講して、最新の技術を提供することができる体制を整えておく必要がある。特に今後は電子書籍への対応、様々な機器によるデイジー再生、音声や点字だけではなく拡大での読書支援などIT支援のニーズは増加するだろう。彼らが社会参加するようになれば、ICT(注3)を利用した情報収集法についても支援する体制を整えることが望まれる。そのためには、機器・ソフト等は最新のものを用意する必要がある。  (注3)ICT:information and communication technologyの略称であり、一般的に情報通信技術と訳されている。  視覚障害者に情報を提供するということにおいては、企業と連携し新製品の体験会、勉強会などを開催できる体制を作っていくことができればと思う。  また、ICT技術が進めば進むほど、それを享受できない利用者が生まれてくる。情報格差を広げないためには、彼らへの対応も忘れてはいけない。すべてを昔のままにというわけにはいかないが、最先端なものでなくても利用できる形を残しておいて、以前から利用していたもの、またその延長線上で利用できるものを業界の中に残していく必要があるのではないか。  特に高齢になってから見えにくくなった人には新しいものでなく、以前使っていたものを利用できるということはプラスになり、情報入手への気持ちが途切れない状態を作ることにもつながる。  ただ新しいものは便利なものが多い。技術が進むたびに差が広がるのを良しとするのではなく、その新しいものが視覚障害者にも使いやすいように、製作する側に視覚障害者の特性を伝えていくということが必要となる。  どのような機器が使いやすいのか、ボタンの形状はどのようなものが使いやすいのか、どのような性能が望まれるのか、視覚障害者情報提供施設がそれらをまとめて企業に情報を提供することにより、企業もまた、より有効な機器の供給につながることとなる。  また、IT技術を活用すれば、遠隔地への対応も可能になる。例えば、パソコンサポートの依頼を受けたが、技術的に対応できる人材がいないというような場合は、遠隔地の指導者の協力を得てサービス提供ができる。その場合、指導を受ける視覚障害当事者と共にインターネット回線のテレビ電話システムを通じて、職員あるいは職員に準じる立場の人が同席する。当事者の眼の代わりとしての役割を担いながら、一緒に遠隔地からの指導を受けることを繰り返しているうちに指導についての知識が高まるだろう。  その先には遠隔地の指導者の力を借りなくても、対応のノウハウを身に付けた職員自らが地元の視覚障害者に指導ができるようになるという期待がある。特に、現時点で指導できる人材がない場合においては、苦手意識から当事者からの依頼を断るのではなく、遠隔地の人材を活用するという手法で対応することができるのではないのか。ITと施設ネットワークの活用は各施設が、利用者から苦手な分野の要望が寄せられても対応できるという利点がある。ぜひとも軌道に乗せたい手法である。  また、このような施設間の相互サポートは、パソコンサポートに限ることなく、眼科的医療やリハビリなど専門的な相談などにも活用できるだろう。当該施設に詳しい職員がいないような場合にも、利用者からの依頼を受け止めることができる。要は、要望を「受け止めることを前提」として取り組むか「断ることを前提」とするかの問題である。当事者からの依頼(要望)を前向きに受け止めるのと断るのでは、その先において大きな開きとなることから、どうすれば対応できるかという視点で考えることに期待したい。 C 啓発事業  これまで、視覚障害者への理解を深めてもらうために、視覚障害者情報提供施設自らが十分かつ積極的に社会に説明してきたであろうか。これからは、当事者である視覚障害者に対してだけではなく、その家族・職場・地域住民等々当事者を取り巻く関係者はじめ、すべての国民に対して、障害について、施設の役割についての説明をするとともに理解を広める必要がある。障害者差別解消法が施行され、民間企業においても視覚障害者が健常者と一緒に働く時代が訪れている。視覚障害や点字の知識だけではなく、社会生活において想定できるすべての事に対しての情報を発信する必要があり、特に災害時において、「見えない・見えにくい」人達が何を必要としているかを伝え続ける必要がある。 2C-(1) 啓発事業の推進  まずは、障害者理解を推進するとともに施設の知名度を高める必要がある。そのための啓発活動は、視覚障害者理解の上で大変重要なもので、事業の柱の一本に据えるべきである。実は視覚障害者理解のみならず、施設の理解もセットで周知することにより、地域住民の施設理解にもつながることから、利用者並びにボランティア等協力者の増加にも期待できる。  啓発事業の実施に当たっては、職員がすべてをこなすには大きな負担があることから、啓発ボランティアの協力を得るのが有効な手段であり、例えば視覚障害当事者が協力者として関わることで説得力が増し、大きな効果が期待できる。 ただし、福祉教室その他における啓発活動に複数の人間が関わる場合は、人によって伝える内容が異なることは避けなければならず、伝える項目、内容、注意事項等の要点についてはマニュアル化するなど共通理解を図る必要がある。  なお、前述のとおり、啓発活動は視覚障害者理解とともに、施設を知ってもらう良い機会であり、施設の良き理解者を増やすという点でも有効である。視覚障害者理解の教室など外部からの依頼については断ることを前提とせず積極的に対応する姿勢が必要であり、短期間での効果は期待できないかもしれないが、対応を継続することで時間の経過とともに確実に理解が浸透することを信ずるべきである。  このような社会一般に対しての啓発だけではなく、視覚障害者への点字の普及も考える必要があるだろう。利用者(視覚障害者)の点字離れが話題となって久しいが、視覚障害者情報提供施設は点字離れに歯止めをかけるために、どのような対策を講じてきたであろうか。点字図書の利用減少と録音図書の利用増加を、単に時代の流れであると受け止め、積極的な対応を怠ってきたのではないだろうか。  点字は、視覚障害者固有の文字であり、音声はあくまでも音声であって、「点字という文字」の代わりを果たすことはできない。しかし、視覚障害者が点字を習得するには当事者の大きな努力と意欲が必要であり、習熟度には個人差が大きいことも事実である。そこで、点字習得=読書というこだわりを捨てて、たとえ一文字であっても点字を読むことができれば、日常生活に大いに役立つという視点からの点字普及を進めるべきである。食料品はじめ身近な物に表示した点字を認識できるだけでも、生活の質の向上につながることを、当事者に分かり易く伝えることが情報提供施設の使命である。  点字を習得すること。それは並大抵なことではないが、チャレンジと達成感の繰り返しである。やがてたどたどしいながらも触読できるようになることを目指し、一文字二文字を読むことができれば数文字、数行、数ページの触読へとつながり、やがては点字図書の利用へとたどり着くことを信じ、点字の普及に積極的 に取り組むことを望む。  また、パラリンピックに向けての取組みも必要であろう。2020年東京オリンピック・パラリンピックは世界各国からの訪問者に対して、障害者理解をアピールする良い機会であり、早急に取り組むべきである。 例えば、視覚障害者情報提供施設においては、3年後のパラリンピック日本開催を意識して、一般への障害者理解を積極的に展開すべきである。視覚障害者への声がけ、接し方等の基本的な事柄を広く普及させることにより、我が国の障害者理解の高さを海外から訪れた人にも知らしめる機会となる。また、視覚障害者スポーツを普及させる良い機会でもあり、体験会・説明会などを通して、身近なスポーツとして広がることを期待する。東京パラリンピックが、障害者理解に確実に結びつく啓発事業の「きっかけ」となる好機であることをしっかりと受け止めていただきたい。 2C-(2) 災害に対する対応を地域に啓発する  災害時の対策については、後段の「4D 災害時に備えて(32ページ)」で触れるが、災害が発生した際に地域との連携が容易に可能となるように、自治体や地域住民に対して、日頃から視覚障害者情報提供施設の存在をアピールし、有事の際に視覚障害者が孤立しないようにする必要がある。 3.施設が「必要なサービスを提供するため」の課題  時代の急激な変化に対し、施設に求められる必要なサービスも激変している。そのためには、施設の人材のスキルアップが急務である。事業の推進力として施設を支え続けてきたボランティアを始め、そのスキルアップの対象は、関係者全員に及ぶ。(図02) (図02 省略) A ボランティア  時代の変化と施設の社会的存在意義を考えると、視覚障害者情報提供施設がボランティアにのみ頼ることへの限界を感じるが、ボランティアなくしては施設の存在はありえないという現状を考えると、当面は以下の課題を克服する必要がある。 3A-(1) 点訳・音訳ボランティア(協力者)確保の課題の克服  その昔、ボランティア活動は、点訳、朗読、手話など障害者関係が多かった。しかし、近年は災害支援、自然環境保護、街づくりなど多岐にわたっており、視覚障害関係のボランティア希望者が減少している。もはや黙っていても人が集まる時代ではなくなった。ボランティア希望者の減少と活動者の高齢化は全国的な共通課題であり、現状を正しく把握し対策を考えるべきだが、小手先の対応ではなく、施設の実情に合わせて思い切った対応が必要である。 3A-(2) 多様なボランティア(協力者)の養成  プライベートサービスのメニュー同様に、求められるボランティア活動の内容も時代とともに変化してきている。点訳者・音訳者の養成だけではニーズに対応しきれない時代となって久しい。このようなことから、例えば拡大写本、パソコンサポート、外出支援、各種介助等その時々のニーズを的確に把握し、養成内容を考える必要があるのではないか。なお、時代の求めが無くなった分野については、役割が終わったとして新規養成を行わないなど、常に需要と供給のバランスを考える必要がある。  また、ボランティアは無償であるからという理由だけで活動につなげるのではなく、常にその活動はボランティア活動として相応しいか否かを考えることが求められる。 3A-(3) 講座カリキュラムの標準化  講座カリキュラムについては、地域差が生じないように、基本カリキュラムの標準化(統一)を図ることが望ましい。基本カリキュラムの作成については、全国標準のカリキュラムを基として、各施設においては、個々の施設の実情に合わせて、効果的なローカルカリキュラムを作成するのが現実的である。また、定期的なカリキュラムの見直しが必要である。 3A-(4) 思い切った養成体系の見直し  講座時間(回数)の長さが必ずしも優秀なボランティアを育てるとは言い切れない現実があるのではないか。単に講座時間の長さを競うのではなく、たとえ短時間であっても遜色のない活動ができる人材が育つように、より効果的な養成体系を考える必要がある。  講座期間の長期化に伴って、活動を志す人達の意欲が低下しないような仕組みが必要である。もし、講座時間の短縮による影響があるのであれば、フォローアップの研修会・勉強会など、その後の研修体制を考えることで十分に補うことができると思われることから、過去の方式と決別して、思い切った養成体系に踏み込む必要がある。  また、一人あるいは少数の指導者が長期間にわたって指導を継続している例が多く、体調その他の理由でベテラン指導者が抜けた先にも影響が生じないように、複数の人材による指導体制を確立する必要がある。 3A-(5) eラーニング等インターネットの活用による、地域差のないボランティア養成体制  インターネットによるeラーニングあるいは、DVDなどの教材を活用したボランティア養成を考える時期に来ている。例えば、基本部分の養成は全国一律で行い、応用部分から各施設で行うなど、新たなシステムによる点訳者・音訳者の養成について検討を要する時期に差しかかっている。これまでの施設ごとの養成から、全国規模の養成に移行するには、全国組織主導による新たな養成システムの構築と、全国に点在する指導者の有効活用と施設間の積極的な協力が必要となる。 ボランティアの養成を施設単位から全国一律の取組みに移行することにより、養成に要する個々の施設の負担を軽減し、その分の労力を利用者へのサービスに振り分けることができる。 3A-(6) いかにしてボランティア予備軍など理解者・協力者数を増やすか  ボランティア希望者を確保するためには、スキルの高いボランティアだけではなく、簡易な活動に協力してくれるボランティアの確保など、施設に関わる協力者・理解者を数多く確保することが望ましい。そのためには、点訳・音訳など専門的活動だけではなく、日ごろからボランティア活動に興味がある人を施設協力者として様々な場面で関わってもらうことにより、その中から専門ボランティア活動に進む人材が生まれる可能性が大となることから、活動者の入り口人口を増やすことが必要である。  今や、待っているだけではボランティアは集まらないという現実を正しく受け止め、その対策を講ずるべきである。 3A-(7) ニーズに対応したボランティアの養成  視覚障害者のニーズは、時代とともに変化している。今望まれているボランティア活動は何であるかを客観的に把握し、養成内容はニーズに合わせて変化させる必要がある。「これまでと同じで良い」という考えから抜け出すことが求められる。 ニーズへの対応と一口で言っても、施設側の都合のみを根拠にニーズに対応するということはありえない。施設利用者から離れたところから考えるのではなく、いかに視覚障害当事者に近づくかが正しいニーズの把握につながるということを理解すべきである。 B 対価を支払う協力者の確保  「ボランティアの手が足りない」「引き受けてくれる人がいない」など、利用者の要望に対応できないのは「ボランティアのせい」にする体質からの脱却をしなければならない。そのためには、対価を支払って活動する協力者の確保が必要となり、従来のボランティア活動と対価を支払う協力者の共存の時代を迎えているという割り切った考えが必要である。 3B-(1) 収益事業として成り立たせるためのシステム作り  障害者差別解消法施行により、障害を理由とする差別の禁止並びに障害者から求められた場合は合理的配慮に努めなければならない。そのことは特に公的機関に対してより強い努力が求められており、今後は資料製作依頼が増加することが予想される。しかし、視覚障害者情報提供施設においては、施設主導による点訳・音訳等資料の製作があり、それ以外は上乗せの業務となる。  従って、外部からの依頼による資料製作のために、本来事業の図書並びに雑誌等の製作に影響を及ぼすことを避けなければならない。外部からの依頼による資料製作については、有料製作として位置づけ、点訳者・音訳者並びに製作スタッフに正当な対価を支払って対応することが望ましく、ボランティア活動とは切り離すべきで、現時点においても複数の情報提供施設が実施している出版事業で対応するのが本来の姿と考える。視覚障害者への情報提供は慈善事業ではないことから、経済的にも継続して成り立つ事業として位置づけることが望ましい。また、法律の施行に伴って提供する点字・音声等の資料の製作をボランティア活動に頼るということが、果たして理論的に説明できるのだろうかという疑問が残る。  一方で、自治体直営あるいは指定管理施設のように公共色が強い情報提供施設においては、収益事業として成り立たせることが難しいという事情がある。しかし、他施設との連携などにより有効な方法を考えるべきだろう。 なお、有償点訳・音訳については、人材の有効活用あるいは製作依頼の集中を避けるためにも、全国規模での連携が必要である。そのためには依頼から製作そして納品まで一連の流れを管理するコーディネーターが必要となる。 3B-(2) 点訳・音訳等協力者認定システムの確立  対価を得て点訳・音訳資料を製作するためには、高い品質が求められる。しかし、それらを評価する基準がない。「点訳のセンス」「音訳の聴きやすさ」「正確さ」などについて総合的に評価できる客観的な認定システムが必要になるだろう。そして認定された人は、点訳・音訳技術レベルが評価されたということであり、いわゆる「お墨つき」ということになる。この認定が点訳・音訳活動者の目指す道となるならば、活動者全体のスキルを高める効果にもなるのではないか。なお、認定システムは、全国共通であることが望ましい。全国組織を母体として検討すべきである。 3B-(3) ボランティア活動と有償活動共存による効率的運営  点訳・音訳活動は、ボランティア数の減少、経費削減、障害者差別解消法に伴う製作依頼数の増加などの時代背景を鑑みると、有償による製作体制の確立は不可欠となる。この項の冒頭に述べたように、利用者からの要望に対応できないのは「ボランティアのせい」にすることが、果たして施設としての正当性を保つのであろうかという疑問がある。一方で、視覚障害者情報提供施設においては、ボランティアの協力なくしては、今日がありえないということも事実であり、当分の間は現状のボランティア活動と有償活動の共存が効果的事業の推進となると考える。  すべてがボランティア活動、すべてが有償製作活動で対応するのは現実的ではなく、製作対象物毎にボランティアにより製作するものと有償製作者により製作するものとを分ける必要がある。  また、理論的には有償製作にすべき内容であっても、これまでの情報提供施設においては有償製作に馴染んでいないという歴史的背景から「経費が確保できない」「有償製作の人材が確保できない」などの理由により「製作しない」という選択は簡単である。しかし、製作をしないという選択をすべきではなく、利用者のためにも便宜上はボランティア活動で対応し、並行して有償製作の体制の構築に努めることで、将来的には有償製作の実現が可能であると考える。従って、有償製作にすべき内容の製作物は、できるだけ有償製作システムに乗せるようにすることにより、息の長い事業展開が可能になると考える。  また、有償とする場合は、その単価について悩むところであり、基準となる全国標準の単価表を作成し、各施設が活用できるようにすることが望ましい。その単価表を基に地域の実情に合わせたローカル単価表を作成することが現実的と考えるが、その場合、有償製作者は、いわゆる「有償ボランティア」的発想ではないことから、正当な対価を考えるべきである。 C 職員の資質向上と人材の確保  今後は、相談に力をいれて視覚障害者支援を行っていくことが求められる。したがって、情報提供施設職員は、図書館サービスに加えて、歩行訓練士や福祉の専門家が学ぶような視覚障害に関する様々な情報、リハビリテーションの知識、相談・支援の基本的な技術について学ぶ場を作っていくことが必要となる。 3C-(1) 専門家集団としての人材作り  視覚障害者情報提供施設は、視覚障害者への情報提供の専門施設だが、音訳・点訳という形での情報支援を中心に事業を展開してきた。そのため、いわゆる視覚障害に関連する眼疾患や福祉サービス・障害者関連の法律等についての専門的な知識を持つ機会がないまま現在に至っている施設職員も少なくないと考える。  音訳・点訳に関する知識は現在までに多く蓄積され、利用者の意見を反映させながら発展させ、その点での情報支援は十分に対応できるようになった。しかしながら、視覚障害当事者と直接対面して関わる場面が少ないため、当事者の生活についての知識や困難さ、不便さについては、当事者から相談され、話を聞くことがあったとしても解決に至らないことがある。また、解決できたとしても業界での意見交換の場がないことから、十分な経験の蓄積ができないという現実がある。  今後は、これまでに培った知識に加えて、相談・支援に関する基本的な知識・技術をはじめ、視覚障害者福祉施設職員としての幅広い知識を有する人材を育てる環境づくりが必要となる。しかし、その仕組みは単一の施設で構築するには難しいと思われることから、全国あるいはブロック毎による体制作りが望ましいのではないか。  職員の専門性が高まることにより、全国のどこに住んでいても、見えにくく・見えなくなったら相談することができるという体制を確立することができる。結果、各視覚障害者情報提供施設は多くの見えない・見えにくい人から信頼され、専門的福祉施設としての役割を果たすことになる。 3C-(2) 研修体制の確立  視覚障害者情報提供施設の役割に「相談」が含まれている。すでに日頃の貸出業務の電話対応等で関わる中で困りごとの相談を受けることが少なからずあるだろう。これには視覚障害に関する知識の取得が必要である。ただし現在は特に研修体制はないことから、たまたま採用された職員に知識があるかないかで各施設間で支援に差がついているのが現状である。  そのため、職員向けに相談支援研修を行い、基本的な相談対応技術を身に付けるのはもちろんのこと、視覚障害に関する知識を取得してもらう体制の確立が必要であり、実現に向けて早急に研修体制を整え、さらに高齢化等の時代に対応すべく、計画的にスキルアップを行っていくことが必要となる。  現在は障害を一括りにした研修等はあるが、視覚障害への対応はそれでは不十分で、専門的な相談に対応する研修が必要である。これを行っていくことで視覚障害者への情報提供、相談支援体制を全国的に整えることができ、医療や行政からの信頼もより厚くなる。  ここでのノウハウを行政や医療・企業に還元することで、視覚障害者への支援者を増やすことができ、新たな収入の道につなげていくこともできると思う。  なお、研修体制については、全体を対象とするもののほか、新人職員への基礎的研修、中堅職員対象の応用的研修、さらにベテラン職員には研修の際の指導を担ってもらうための指導員研修など、対象別研修も必要となる。 3C-(3) 職員交流研修の実現  相談に対応できる職員は各施設に複数配置されていることが少ないため、職員が自分のサービス・支援についてスーパーバイズを受けることができる体制ではない。各ケースを担当者一人で抱え込むことで、ストレスを感じる職員も増えてしまう。何より職員のスキルアップが図られない状態では、ニーズに応える支援を行うことができないだろう。  そこで、担当職員が集まる交流・研修を実施する必要がある。そうすることで今まで各施設では扱わないようなケースの検討もでき、また多くの相談・ニーズの蓄積を行うことができる。このように、各職員の交流、研修が実施されれば、全国的に一定のサービス提供ができるようになっていく。このようなケースの蓄積がされることで、事例という形でオープンになれば、視覚障害当事者が自分と似た人の状況を自分で調べたり、病院等で情報提供を受けることも可能になるだろう。そうなれば、今後の心構え等につなげることができるようになり、視覚障害者情報提供施設は、視覚障害者の支援拠点としての役割を果たすことになる。  また、各施設においては、必ずしも職員を指導する人的ゆとりがないと思われることから、職員相互交流研修などにより、他施設の仕事を学ぶことも有効な手段である。 4.施設が「必要なサービスを提供するため」の事業継続とは  視覚障害者情報提供施設にとって、利用者への図書館サービスは依然として大きなテーマであることに変わりはない。国は自治体を通して、情報提供施設に対して人的な予算措置を行っている。これが経営の基本だが、これ以外の利用者が必要とするサービスを安定的に実施していくためには安定的な財源の確保が必要である。そのためには、サービス提供対象ターゲットを拡げ、関係機関の協力を得る必要があるだろう。ここではこれら活動の方向を4つにまとめた。(図03) (図03 省略) A 対象者の拡大  ロービジョンおよび今後見えなくなる恐れがある人、並びに家族・周囲の人への対応も重要である。現実的には、見えない・見えにくい人は、身体障害者手帳(視覚障害)所持者数をはるかに上回るが、視覚障害者情報提供施設においては、これまで特にロービジョン(弱視者)への対応が十分に行われてこなかった。そこで、重度視覚障害者のみならず、生活の質の向上を目指して、ロービジョン者への早期対応に努める必要がある。 4A-(1) より充実した人生を送ってもらうために  日本眼科医会によると、見えにくくて生活に不便がある人は身体障害者手帳(視覚障害)所持者の5倍以上の160万人と推定されている。視覚に関係する支援がすぐに必要となるケースばかりではないが、現状より見えにくくなったとしても、早い時期に利用できる情報、生活支援があることを知ってもらうことで少しでも不安を軽減することができる。また見えなさの補完ではなく、見えにくさの補完を行うことで、見える人と見えない人の狭間にいる、障害者手帳を所持していないことにより情報が途切れがちな見えにくい人に、より充実した生活を提供できるようにしていくことが求められる。  ロービジョン者への対応を行うことで、新たなニーズの掘り起こしにつながり、そこから新しいサービスが生まれる。見えにくい人に配慮して医療情報を調べられるような体制を整える、あるいはロービジョンの人が集い話をする機会を設定し、そこに全盲あるいは重度障害の方が合流し、当事者としての有効な情報提供を行うことにより、説得力のあるロービジョン対応が可能となる。 4A-(2) これまで手薄であったロービジョン者への積極的な対応  これまでの視覚障害者情報提供施設の主な利用者が全盲に近い人が多かった状況の中で、見えにくい人への対応・対策はあまりとられてこなかった。このことが現在の利用者数にとどまっていることにつながっていると思われる。例えば見出しなどの活字が「見える」人も長時間「読む」となると困難さを感じ、紹介をしてみると、現実的には音声利用を好まれる人が多い。全盲からロービジョンまで視覚障害者を幅広くとらえ、情報支援体制を整えることが必要となっている。今後は、視覚障害者の高齢化が進むことが予想されることから、サービスを求める人は増加していくだろう。  大活字の本の整備、ルーペや拡大読書器の整備などにより、見えにくくなっても工夫をすることで生活が成り立つという情報を発信していくことが必要である。この先見えなくなることへの大きな不安を抱えている人に対して、心理的負担感を軽減させるような対応も必要である。また、ロービジョン者が早い時期に視覚障害者情報提供施設と関わるためには、地域の眼科医師会、眼科医院など医療関係機関との連携が重要となる。  視覚障害者情報提供施設は全盲の人だけではなく、 「見え方に困難さがある方のための施設でもある」ということを全面に打ち出して事業展開をしていくことで、ロービジョン者のニーズを掘り起こし、高齢化社会の中で意義のある施設としてサービスを提供していくことができるようになる。 B 収益事業の拡大  将来にわたり継続して事業を実施するためには財源の確保が必要である。利用者が必要とするサービスを継続して実施するためには、相談支援、自立訓練、地域生活支援事業などに加えて、各種点訳・音訳資料の製作受託、メディア変換などの収益事業により、施設の安定的な運営を図る必要がある。 4B-(1) 相談支援(地域生活支援センター事業)  原則は、身体、知的、精神の障害者のための相談機関である。当事者、家族等からの相談を受け、福祉サービスの申請の代行も行う。相談員には一定の資格が必要となる。 4B-(2) 自立訓練(機能訓練)  視覚障害者リハビリテーションは障害者総合支援法では「自立訓練(機能訓練)」として位置づけられる事業である。しかし、日中活動として視覚障害者だけに特化して実施していくのは、サービス管理責任者や看護師の設置が必要となるので現実的ではない。ただし、「就労移行支援」、「就労継続」事業等に併設する中で実施するということは可能かと思われる。 4B-(3) 地域生活支援事業  自治体の枠での事業になるが、上記の視覚障害者リハビリテーション事業はこの予算で実施されているところが多いようだ。各自治体の判断により実施されるので、自治体の担当者にこの必要性を理解してもらう必要がある。  この事業には「日常生活用具」の給付も含まれており、視覚障害者のための便利グッズを含めるかどうか、対象をどの範囲とするかについても自治体の判断になる。新しい制度の創設となるとハードルが高そうに見えるが、各地域での努力により認められる可能性があると考えるべきである。  すでに川崎市では、視覚障害者用ポータブルレコーダー(DAISY再生機)の交付は重度視覚障害者だけではなく、必要と認められた1級から6級までへと範囲を拡大している。なお必要性の確認は視覚障害者情報提供施設が実施している。いずれにしても、自治体担当者の理解を得ることが必要となる。 4B-(4) メディア変換事業  障害者差別解消法の施行により、視覚障害者への情報提供において、点字化、音声化、拡大文字化等の作業が発生する。これを事業化し、安定した収入源としていくことが可能である。 4B-(5) 各種接遇研修  啓発普及だけではなく、企業等の依頼を受けて、視覚障害者への接遇研修あるいは福祉教室等を有料で実施することを検討してはいかがであろうか。情報提供施設には視覚障害者関連の知識や経験があることから、今後この種のニーズが高まることが予想される。 4B-(6) 視覚障害者用日常生活便利グッズの販売  日常生活を便利にする各種の道具(用具・器具)があるが、実物に触れる機会が少ないのが現状であり、地域の施設で常設による利用の案内が求められており、当事者は現物を確認したうえで入手できるというメリットがある。  なお、見本品の常設については、購入のための経費削減のために、取り扱い業者から展示品としての借用の可否について相談することも一方法である。ショールームとしての役割を果たすことから、見本品の提供は取扱業者にとっても有利な対応になるだろう。  また、視覚障害者用に作られ販売されている商品に限らず、一般に市販されているモノの中にも、見えない・見えにくい人が使って便利な商品があることから、新たな便利グッズの発掘に努めることで、より大きな広がりに期待できる。 C 関係機関への積極的なアプローチ  視覚障害者情報提供施設が見えない・見えにくい人に単独で対応するには限界がある。そこで、より有効なサービスを提供するためには、医療現場、行政、公共図書館、職業訓練、教育関係、当事者団体、ボランティアグループなど、様々な関連機関・団体と積極的連携を図る必要がある。  日本社会の高齢化は、点字図書館も多くの直面する課題を抱えている。例えば、人口約149万人の川崎市の場合は、身障手帳保持者(視覚障害)は約2200人になるが、65歳以上が6割強という数値になっている。団塊世代の高齢化が進む中で、見えない、見えにくい人たちが急増することは避けられない。しかし、現時点においても手帳を持たないが、支援を必要とする人たちが数多く存在している。  神奈川県には、神奈川県視覚障害者生活技術研究協議会があり、この会は点字図書館、視覚リハ施設、当事者団体、盲特別支援学校、大学病院眼科など16施設・団体が加盟している。これらの各関連施設・団体は、見えない、見えにくい人たちに、相談、教育、訓練の情報を提供し、各施設同士で連絡を取り合って、必要とする人たちを必要な施設に結び付けている。また、新潟県の「ささだんごネット」などの連携も好例となっている。  今後は、従来の日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)や全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)など全国組織だけではなく、これを参考に各地域で関連機関・団体との連携強化を進めて行く必要がある。基礎自治体(市・町・村)、広域自治体(都・道・府・県)など地域ごとの連絡協議会を立ち上げて、情報交換や課題解決のための会議などを定期的に開催することで、より良い連携が継続するだろう。また、効果的連携を実現している地域モデルについては、その事例を全国に向けて発信することで、より良い形での連携につながると期待している。  なお、各関係機関との連携の共通事項は、視覚障害者情報提供施設(点字図書館)の事業への理解を深めてもらうことでもある。必要に応じて点字・録音図書、用具・便利グッズ等の紹介、歩行訓練、生活訓練等各種体験会の開催、関連機関窓口におけるパンフレットなど紹介資料の常設配布など、見えない・見えにくい人との接点を増やすことが必要である。 4C-(1) 眼科医等医療機関  眼科医師や看護師、視能訓練士など眼科医療に携わる関係者は、早い段階で見えない・見えにくい人と接する立場にあることから、極力早期に各施設と医療の連携を図ることができれば、当事者にとって大きなプラスとなるばかりではなく、医療的対応の限界を情報提供施設が福祉的対応で引き継ぐことができる。そうしたことで、視覚障害を持つ人達にとって、時間的空白を避け、その先の人生を前向きに歩んでもらうことができるだろう。そのためにもこれらの連携に力を入れる必要がある、 4C-(2) 福祉事務所等行政窓口  福祉事務所等行政の窓口担当職員は、あらゆる種類の障害者と接すると思われる。しかし、残念ながら視覚障害者に限定した場合、その知識は人によって様々であるため、情報提供施設の存在さえも知らない担当者がいるということもあるようだ。言葉は悪いが、対応した職員に当たり外れがあるということは、見えない・見えにくい人のその先の人生を大きく左右することになり問題である。  視覚障害者情報提供施設は、新たに着任した職員への情報提供を積極的に行う必要がある。特に4月の人事異動により着任した職員には、施設の存在を知ってもらうことで、対応を必要とする人に対して、情報提供施設の紹介につながる可能性が高くなる。そのためには、施設見学や視覚障害者の状況など現実を知ってもらうことで、理解を深めていただく上での効果が大きいと考える。 4C-(3) 身体障害者更生相談所、相談支援事業者  視覚障害を理解してもらうために、視覚障害者情報提供施設からは各種資料の提供並びに、研修場面での協力などが考えられる。更生相談所、相談支援事業者からは、必要に応じて視覚障害者への対応を相互に引き継ぐなど有効な連携に期待ができる。 4C-(4) 公共図書館  公共図書館に対しては視覚障害者理解につながる啓発を推し進める。 それと同時に、点訳・音訳図書等資料の製作、「サピエ」活用支援はじめ、長年視覚障害者の専門図書館として培ってきたノウハウを提供してゆく。そのような協力をすることで、公共図書館における障害者サービスの後押しをすることができるだろう。また、墨字原本の借用、資料製作に伴う読み方調べ等レファレンスなどについては、公共図書館の協力を受けるなど、双方の強みを生かした協力体制を進める必要があるのではないのか。このような協力体制を作ることで、公共図書館と有効な関係を維持することが望ましい。 4C-(5) 職業訓練関係  職業訓練関係機関とは定期的な連絡会を設ける必要があるだろう。訓練施設で学ぶ人たちへの情報提供サービスについて、図書等の利用の仕方、サピエについて、用具の紹介はじめ施設の紹介を通して利用に結び付けていくことができる。また、職業訓練を必要としている利用者に対しては、職業訓練機関についての情報提供を行うなど、双方向で効果的な関わりを持つ必要がある。 4C-(6) 教育機関  視覚特別支援学校と定期的な連絡会を設ける必要があるだろう。加えて、各学校の必要に応じて移動図書館の実施、あるいは学校で学ぶ人たちに対して図書館資料の利用の仕方、必要な資料の作成、用具の展示会、副音声付映画上映会の実施をするなども情報提供施設の役割と考える。このような活動を通して情報提供施設を紹介することにより施設の利用につなげることに期待できる。また、同様に地域の弱視学級に所属する子供たちへのアプローチも行うことで、若年者の利用につながる可能性がある。  小学校・中学校はじめ各教育現場に障害者理解を進めることは大きな成果がある。夏休みなどに親子の点字体験や、ボランティア体験などで、点字に対する知識や視覚障害者の状況を知ってもらうことで理解を深めてもらう良い機会を提供することもできるだろう。また、教職員対象の福祉教室の開催などは、その先の授業に生かされることにより、より大きな成果が期待できる。 4C-(7) 当事者団体  地域の当事者団体と協働で、会員への図書館利用について定期的な説明の機会を設ける必要があるだろう。そうすることにより、その先の利用につながる可能性がある。具体的には、点字・録音のほか拡大文字・テキストデイジー・マルチメディアデイジーなど各種媒体による図書の紹介、サピエの紹介、デイジー再生機の操作、または便利グッズの紹介などが考えられる。  また、誘導ブロックの敷設、音響信号機の設置、制度の変更、行政への各種要望、一般社会への啓発などにおいては、当事者団体との連携が大きな力になることから、日頃からの友好な関係が必要である。 4C-(8) ボランティアグループ  地域の視覚障害者にかかわっている録音、点訳、拡大写本、パソコンサポートなどのボランティアグループと連携し、障害者のニーズに迅速かつ的確に応えていくネットワークの構築を行う。視覚障害に対する理解を深めてもらうために、情報提供施設が得ている情報を、ボランティアグループに向けて積極的に発信し、視覚障害者のために施設とボランティアは車の両輪という関係を構築し、その活動は、同一方向を向いて連携する必要がある。また、点訳や音声訳の活動だけではなく、シネマデイジーの製作、地域情報の収集と発信、各種イベント開催時のサポーターとしてボランティアの協力を得て、良好な事業展開を図る必要がある。 4C-(9) その他  公共交通機関、警察・消防関係、施設近隣の商店・ホテル、サービス業者、地域住民を対象に視覚障害に対する理解を深めるための取組みに力を入れる必要がある。具体的には、点字体験、視覚障害者への声かけと手引きの基本姿勢、配慮すべき事項、施設の事業紹介など地域に開かれた施設として受け止めてもらう必要がある。また、日ごろから地域住民との良好な関係を保つことは、災害時の連携にもつながり、地域社会のバリアフリー化の一翼を担うことに期待が持てる。 D 災害時に備えて  各施設は各地域において、災害時の現実的対応を目指して活動する必要がある。具体的な対応を考えることはもとより、有事の際の被災施設支援には過去の経験がある。阪神・淡路、東日本、熊本大震災などの支援経験を生かした体制づくり、さらに災害時の利用者安否確認などについての対策は、平時からの取組みが重要となる。併せて、リスク分散に向けての検討が必要である。 4D-(1) 災害対応マニュアルの作成  各施設においては、災害への対応について検討されたマニュアルを作っていると思うが、視覚障害者への災害時の情報提供については全国的な連携の取りまとめはできていない。各施設が最低限すべきことをまとめ、加えて各施設同士でどのような連携をすることで視覚障害者をスムーズに支援できるかについてはマニュアル化する必要がある。そこには災害対策の専門家と連携し、より具体的なものにしていく必要がある。マニュアルを作って発信していくことで地域や行政と連携をしていくことが可能となる。そうすることで、視覚障害者の災害支援の拠点として地域の中で位置づけられるようになっていくだろう。 4D-(2) 有事のネットワークの確立  有事の際の情報提供は普段以上にスピードが求められる。直接被害があった地域では当然十分な体制が整わないので、近隣地域でのネットワークを確立しておく必要がある。  まずは被害施設の支援のためのネットワーク。施設が業務に復旧するための片づけ、データの確認、利用者の安否確認等が考えられる。続いて被害情報の発信。有事の際に出される様々な資料の点訳・音訳とホームページを利用した情報発信である。これは近隣でなくても対応ができることであるので、ブロック単位で対応することを決めてもいいかもしれない。有事の際の情報発信体制を整えることで、現在はできていないが、災害時情報提供においてブロックは中心的な役割を果たすことができるようになるだろう。  なお、各施設においては、災害時に対応する「支援力」を高めることと並行して、自施設が被災した際に有効な支援を受け入れることができる体制作りをして「受援力」を高めておく必要がある。 4D-(3) リスク分散の取り組み  災害発生により、各施設で蓄積しているデータ等が利用できなくなることが考えられる。サピエに上がっているデータはバックアップされているため問題ないが、各施設だけで保管している資料については利用できなくなることが想定される。現物でしか保存できないものは仕方ないが、データ化できるものは順次データ化を行いサピエで一元管理する体制を整えるなど、資料がなくなってしまうということがないようにしていく必要がある。  ウェブ図書館はそういう意味では、災害時にIDとパスワードがあれば、情報にアクセスすることができることから災害に強いといえる。ウェブ図書館を利用できない館のためにクラウドの利用やデータのバックアップ等について支援を行い、各施設が災害に強い体制を整えていくことが求められている。そうすることで災害後も安定して利用者に対して情報提供でき、責任を果たしていくことができる。 5.おわりに  シニアメンバー版10年ビジョン作成においては、年齢により現役を離れた顔ぶれを核メンバーとしながらも、これから時代を担うメンバーにも加わってもらい、さらに全視情協を取り巻く関係者の方々に助言をいただきながら、我々の思いを文字にすることができた。  しかし、途中の原稿に対して関係者に意見を求めたところ「インパクトがない」「目新しさがない」「課題に対する解決策が明確ではない」等々の声をいただいた。それらの声を真摯に受け止めることとして、改めて考えてみると。我々の役割は10年ビジョンを作ることが最終目的ではなく、シニアメンバー版10年ビジョンを示すことで、次の時代へのスタートラインを引くことにあると考える。インパクトには欠けるかもしれないが、これから先も、見えない・見えにくい人に信頼され役立つ施設として前進してほしいという願いを込めたビジョンとして受け止めていただければ幸いである。  その昔、わが国に点字図書館が続々と誕生した頃は、ゆったりとした時間が流れていたという感があるが、コンピュータ社会の到来により我々の生活は豊かになり、最新技術は視覚障害者の情報入手環境にも大きな変化をもたらした。昨今の時の流れの速さを考えると、10年先の予測さえも難しい時代にあっては、ビジョンの途中検証そして時代に合わせた軌道修正をしながらの流動的ビジョンになることが現実的と考える。  終わりになるが、後藤理事長が「はじめに」の言葉で述べているように、このシニアメンバー版10年ビジョンが、それぞれの施設における10年ビジョンを考えるきっかけとなることを切に願っている。見えない・見えにくい人の、より豊かな生活のために。         2017年3月31日         シニアメンバー版10年ビジョン会議 −−−− 検討メンバーおよび検討会議 【検討メンバー】  飯田 秀隆(元川崎市盲人図書館館長) ※シニアメンバー  原田 敦史(堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター所長) ※現役メンバー  姉崎 久志(北海点字図書館情報支援部長) ※シニアメンバー、原稿取りまとめ担当 【監修】  後藤 健市(全国視覚障害者情報提供施設協会理事長、北海点字図書館理事長)  なお、上記メンバーのほか、(順不同)川崎市視覚障害者情報文化センターの小野俊己氏・中村透氏、全視情協理事の久保田裕氏・仲泊聡氏、元全視情協理事長 川越利信氏、日本ライトハウス 橋口勇男氏、竹下亘氏、そして全視情協10年ビジョン会議報告書「2025年のわたしたちへ」を取りまとめた若手メンバーの方々から、貴重な助言をいただきましたことをご報告申し上げるとともに、この場をお借りしてお礼申し上げます。 【検討会議】  第1回会議 平成28年4月22日(金) 川崎市視覚障害者情報文化センター  第2回会議 平成28年8月30日(火) 川崎市視覚障害者情報文化センター  第3回会議 平成29年1月11日(水) 川崎市視覚障害者情報文化センター  第4回会議 平成29年1月12日(木) 日本ライトハウス情報文化センター(大阪市)  なお、上記会議のほかは、随時メールによるやり取りにより検討しました。 以上