法律問題Q&A 令和6年能登半島地震 更新:令和6年1月17日 〔説明〕 これは、日本支援司法センター 法テラスがホームページで公開しているカラーのPDF文書で46ページまであります。 〔説明終わり〕 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 2024年製作 テキスト化凡例 1 テキスト化の際に加えた説明は〔〕(亀甲かっこ)で囲んでいます。 2 Q〔質問〕には、通し番号があります。例:Q1、Q2。 3 ルビは、《》(二重山かっこ)で囲っています。 4 目次を作成しました。 テキスト化凡例終わり 目次 内容 1ページ 1. 各種支援制度 7ページ Q〔質問〕1. 災害弔慰金の支給内容について教えて下さい。 7ページ Q〔質問〕2. 災害により重い障害を負いました。何か支援制度はありませんか。 7ページ Q〔質問〕3. 災害後、避難所生活をしていたところ、私の父が亡くなりました。そこで、災害弔慰金の支給を申請しましたが、認められませんでした。このままあきらめた方が良いのでしょうか。 7ページ Q〔質問〕4. 高齢の親戚が住む家が災害で全壊したため、親戚はアパートを借りて生活しています。親戚は年金も受給していないため、生活保護を考えているようです。生活保護を申請したいのですが、どうすればいいですか。 8ページ Q〔質問〕5. 災害により住宅が被害を受けた場合、住宅の再建・補修のための援助制度には、どのようなものがありますか。 8ページ Q〔質問 6. 公営住宅へ入居するためには、どうしたらよいですか。 10ページ Q〔質問〕7. 災害により、住んでいた建物が半壊してしまいました。役所から罹災《りさい》証明書を出してもらおうとしたところ、住民票の住所と異なるということで、出してもらえませんでした。あきらめるしかないのでしょうか。 10ページ Q〔質問〕8. 災害で自宅が浸水しました。浸水被害の場合でも、罹災《りさい》証明書を出してもらうことはできますか。 10ページ Q〔質問〕9. 災害で自宅が半壊となりました。仮設住宅への入居を申し込もうとしたところ、全壊でないと入居できないと言われました。自治体ごとに、入居条件は異なるのでしょうか。 10ページ Q〔質問〕10. 災害で自宅が損壊したため、取り壊して立て直しをすることを考えています。被災後、仮の住まいとしてアパートを借り、加算支援金(賃借)の支給を受けましたが、さらに、加算支援金(建設)の支給を受けることができますか。 10ページ Q〔質問〕11. 被災者生活再建支援制度に上乗せする再建支援制度はありますか。 11ページ Q〔質問〕12. 災害で家屋が損傷を受けました。自治体の負担で応急修理をしてもらえると聞いたので修理をお願いしました。その後、仮設住宅に入居を申請したところ、応急修理をしたため、入居できないと断られました。入居は無理なのでしょうか。 11ページ Q〔質問〕13. 災害で仕事と財産を失った外国人も生活保護を受けられますか。 11ページ Q〔質問〕14. 今回の災害が原因で生活が困窮しています。生活資金を借りるための制度はありませんか。 12ページ Q〔質問〕15. 損傷(全壊・半壊)した家屋のがれきや、自宅の敷地内に流れ込んだゴミ・がれきなどを撤去したいのですが、撤去費用について、何か支援制度はありませんか。12ページ 2. 借入・ローン関係 13ページ Q〔質問〕1. 以前から借金の返済に苦労していましたが、災害の影響で収入が減少し、いよいよ返済が困難となりました。どうすればよいですか。 13ページ Q〔質問〕2. 市役所から土砂の流出による災害から宅地を守るための工事を行うよう勧告を受けましたが、費用がありません。どうしたらよいでしょうか。 13ページ Q〔質問〕3. 災害の影響で住宅ローンの支払が苦しくなりました。どうしたらよいでしょうか。 13ページ Q〔質問〕4. 破産を検討しています。今回の災害で車が破損したので、自身の配偶者が自己名義であらたに車を購入しました。私が破産した場合、その車を手放さなければならないのでしょうか。 14ページ Q〔質問〕5. 災害で家を失ったため、お金を借りて家を建て直したいのですが、過去に債務整理をしています。お金を借りることはできないのでしょうか。 14ページ Q〔質問〕6. 仕事がなくなり困っていたところ、「給与を前借りできる」という広告を見つけました。「貸金業《かしきんぎょう》ではない」とも書いてあるのですが、当面の生活費のために借り入れても問題ないでしょうか。 14ページ Q〔質問〕7. 災害後、生活が苦しくなりましたが、最近葉書が届いて、お金を貸してくれるとのことだったのでお願いしました。2万円を借りることになりましたが、手数料5000円を引かれ、実際には1万5000円しか振り込まれませんでした。その後、3万円も返済しましたが、まだ請求が来ます。どのようにしたら良いでしょうか。 15ページ Q〔質問〕8. 今回の災害により、法人の破産手続開始の決定が留保されると聞きました。 15ページ 3. 土地・建物関係 16ページ Q〔質問〕1. 災害により被害を受けた場合、住宅の補修のための支援制度には、どのようなものがありますか。 16ページ Q〔質問〕2. 災害で家屋が壊れたところ、市役所の職員を名乗る人が来て、家の持ち主は修繕をすることが義務なので、早く修繕を依頼するよう勧めてきました。本当でしょうか。 16ページ Q〔質問〕3. 「修理詐欺」で家が災害発生前よりひどい状態になってしまいました。代金を支払わなければならないでしょうか。 16ページ Q〔質問〕4. 災害で分譲マンションの一部が壊れてしまいましたが、修復することはできますか。そのためにはどのような手続が必要でしょうか。 17ページ Q〔質問〕5. 災害で石垣が崩れたので、施工業者に修繕をお願いしました。契約時に工事代金の半額を支払いましたが、工事完了予定日をすぎてもまだ工事が完了していません。施工業者は、残金をもらうまでは、工事をしないといっています。残金を支払わなければならないのでしょうか。 17ページ Q〔質問〕6. 災害により隣の敷地から土砂が流れてきて、私の家の敷地と隣家の敷地の境界がわからなくなりました。話合いをしましたが、お互い譲らず話合いがつきません。どうしたらよいですか。 18ページ Q〔質問〕7. 事業資金借入の担保として金融機関の抵当に入っていた自宅建物が、災害による土砂で流されて滅失してしまいました。この場合、抵当権はどうなりますか。 18ページ Q〔質問〕9. 市役所から、私の家の損壊状況について調べるために訪問するとの連絡がありました。市役所がそのような調査をすることはありますか。また何のために家の損壊状態を調べるのですか。 19ページ Q〔質問〕10. 今回の災害で隣家が大きく傾きました。次に自然災害が発生したら、自分の家に倒れかかりそうです。隣家は長い間空き家で、誰に言えばいいかも分かりません。自分で隣家を壊してもいいのでしょうか。 19ページ Q〔質問〕11. 災害で、隣の土地の擁壁が損傷しました。いつ擁壁が崩壊し地盤が崩落してくるか心配です。どうしたらよいでしょうか。 19ページ 4. 賃貸借関係 21ページ Q〔質問〕1. 賃貸住宅に住んでいるのですが、災害の影響で建物の一部が使用できなくなりました。賃料の減額を請求することはできないでしょうか。 21ページ Q〔質問〕2. 災害の影響で、賃料を滞納してしまったところ、大家さんに部屋の鍵を付替えられてしまいました。仕方ないのでしょうか。 21ページ Q〔質問〕3. 借家に住んでいますが、災害で家屋に損傷が生じました。家主に修繕を依頼したが応じてもらえなかったので、やむなく自分で30万円をかけて修繕しました。修繕にかかった費用を支払ってもらいたく何度も家主に連絡しましたが、連絡が取れなかったため、家賃を毎月1万円減額して支払っていました。ところが、最近になり、家主から、約定どおりの家賃を支払っていないため出て行くようにといわれました。これまでどおり、減額した家賃の支払いのままでよいでしょうか。 22ページ Q〔質問〕4. 私が借りているアパートは、災害により、2階に昇る階段がいつ外れるかわからないような状態です。大家さんに修繕を求めたのですが、取り合ってもらえません。どうしたらよいでしょうか。 22ページ Q〔質問〕5. 災害の影響で、大家さんから、賃貸借契約を解約したいと申入れがあり、これに応じて退去することになりました。仲介の不動産会社からは、「中途解約なので通常であれば引越費用は大家が負担するが、今回は、大家さんも災害で被害を受けているため、引越費用は負担してもらえない。」という話がありました。また、災害で被害を受けた建物の修繕費用も大家さんと折半で負担するよう求められ、修繕の業者が家に出入りした際に汚した部分のハウスクリーニング代まで負担するよう求められていますが、これらに応じなければならないのでしょうか。 23ページ Q〔質問〕6. 今回の災害で賃借している部屋のコンセントが漏電するようになってしまいました。そこで、管理会社に修理をしてほしいと連絡したところ、修理費用を半分支払ってほしいといわれました。この場合、修理費を半分支払わなければいけないのでしょうか。 23ページ Q〔質問〕7. 一戸建てを賃借して住んでいました。災害後に解約して退去しましたが、原状回復費用に充てたと言われ敷金を返してもらえません。また、災害で、建物の壁にひびが入りましたが、逆に、その修繕費を請求されました。どうしたらよいでしょうか。 24ページ Q〔質問〕8. 借家に住んでおり、2年契約で来月末が更新の予定でした。ところが、大家さんの自宅が災害で損壊してしまい住むところがなくなったため、私に借家を明け渡すよう求めています。退去しなければならないでしょうか。 24ページ Q〔質問〕9. 住んでいる賃貸マンションの一部が、災害で壊れてしまいました(住めないという程ではありません)。大家さんに修繕を依頼したところ、逆に、賃貸マンションから立ち退くように要求されてしまいました。このような場合、賃貸借期間は残っていても、立ち退かなければいけないのでしょうか。また、立ち退く場合には、立退料は請求できますか。 24ページ Q〔質問〕10. 建物が「滅失」した場合は、借家契約が終了すると聞いたのですが本当ですか。建物の「滅失」とは、どのような状態をいうのですか。 25ページ Q〔質問〕11. 災害で賃借していた建物が壊れてしまい、このまま住める状態ではないため、賃貸借契約を解除して引っ越しをすることにしました。この場合、敷金を返還してもらうことはできるのでしょうか。さらに、大家さんに引っ越し費用を請求することはできるでしょうか。 25ページ Q〔質問〕12. 災害の影響で給与が減額され、家賃の支払が難しい状況になりました。家賃は1か月遅れの状況ではありますが払っています。先月、管理会社に事情を説明し、「滞納している分と併せて、今月2か月分支払う」という話をしましたが、実際には、1か月分しか払うことができませんでした。今日帰宅したら扉に管理会社からの封書があり、「今月も家賃遅れますか。」という旨の内容でした。今後強制退去になることはあるのでしょうか。 26ページ Q〔質問〕13. 災害時に、賃貸マンションの上の部屋のベランダに置かれていた物のせいで、排水がうまくいかず、階下の私の部屋まで水浸しになってしまいました。上の階の住人に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。 26ページ Q〔質問〕14. 災害で借地上の建物が全壊しました。賃貸人の承諾なく再築することは可能でしょうか。 27ページ Q〔質問〕15. 借りていた土地が災害による地割れで使用できなくなりました。地主にどのような請求ができますか。 27ページ Q〔質問〕16. テナントビルを貸しているのですが、入居している飲食店から、「災害の影響で経営が苦しくなったため賃料の減額を求める」旨の通知が届きました。私としては納得できないのですが、賃料の減額に応じなければならないでしょうか。 27ページ Q〔質問〕17. 15年くらい前から同じ人に住宅を賃貸しています。賃借人から、「災害で階段が壊れたので、修理した」と言って20万円を請求されましたが、これを支払わなければなりませんか。 28ページ  Q〔質問〕18. 一戸建ての住宅を賃貸していますが、賃借人が家賃を滞納しがちで、建物が古くなっていたこともあり、災害をきっかけに、賃借人に対し、「建て替えもしたいので、この際新しいところに移ってはどうか」と促しました。賃借人は、「1か月後に出て行くが、滞納している家賃は支払わない。」と主張しています。そのようなことが許されるのでしょうか。 28ページ Q〔質問〕19. 災害で住むところがなくなった知人に、私が住むときには出て行くと口頭で約束の上、家を貸しました。契約期間は2年で、相場に見合う家賃ももらっています。その家に自分が住む必要が出てきましたので、知人に出て行ってほしいと言ったところ、知人は今後も住み続けたいと言っています。契約の更新を拒絶すれば、知人に出て行ってもらえるのでしょうか。 29ページ Q〔質問〕20. 築40年の木造アパートを賃貸しているのですが、災害に耐えられるかどうか不安があります。今回の災害のようなものが起こり、住人に被害が出たような場合に、賃貸人はどのような責任を負うのか教えてもらえますか。また、もし、立退料を支払って、住人に出て行ってもらうことにした場合、立退料の相場はどのくらいでしょうか。 29ページ Q〔質問〕21. 所有するマンションを賃貸しています。管理組合から災害に伴う修繕費用の請求書が届きました。私はそのような修繕をすることに同意はしていなかったのですが、払わなければならないのでしょうか。 30ページ 5. 登記・登録関係 31ページ Q〔質問〕1. 抵当権を設定していた建物が災害で損壊してしまい、跡形もありません。抵当権の被担保債権となっている借金の支払をする必要もなくなったのでしょうか。 31ページ Q〔質問〕2. 災害で土地・建物の権利証を紛失しました。不動産(土地・建物)の所有権等を失うことになるのでしょうか。31ページ Q〔質問〕3. 住宅ローンを組んで住宅を購入し、土地と建物にそのローンの抵当権が設定されています。災害で建物がかなり傷み、修繕するにも多額の費用を要するので、取り壊したいと考えています。住宅ローンの債権者に無断で取り壊して問題はないですか。31ページ Q〔質問〕4. 所有していた自動車が災害で土砂をかぶり使用できなくなりました。自動車の登録抹消は必要でしょうか。 31ページ 6. 親族・相続関係 33ページ Q〔質問〕1. 妻とはかなり以前から別居していました。別居後しばらくして離婚裁判を起こし、その裁判中に災害が発生して、建物は倒壊してしまいました。土地の価値も下落してしまいました。それでも別居当時の財産価値を前提に、財産分与をしなければならないのでしょうか。 33ページ Q〔質問〕2. 妻とは長期間別居しています。数年前に妻に生活費として300万円を渡しました。災害で車が壊れてしまい、現在は年金暮らしのため、車の購入がままなりません。妻は現在も働いており、お金はあるはずなので、渡した300万円を返して欲しいです。 33ページ Q〔質問〕3. 災害により父親が死亡しました。父は多額の負債があったので相続放棄をしたいのですが、相続放棄をした場合、弔慰金、義援金(義捐金)、死亡保険金などを受け取ることはできるのでしょうか。 33ページ Q〔質問〕4. 災害の発生当時、災害の対象地域に住んでいた方が相続人となる場合は、相続放棄や限定承認をできる期間が延長されると聞きました。 34ページ 7. 契約関係 35ページ Q〔質問〕1. 災害がおこる直前に、新築住宅の売買契約をし、手付金を払いました。ところが、住宅そのものには災害の影響はなかったのですが、周辺の地域は土砂の流出等が起きており、安心して住む気になれません。解約することはできるでしょうか。その際、手付金は返してもらえますか。 35ページ Q〔質問〕2. 自宅を新築中でしたが、災害のために工期が予定よりも延びてしまうとのことでした。自宅への引っ越しが予定より遅れる分、現在借りている家の賃料を余計に払わなければならなりません。このような場合、建築業者に損害金を請求することはできるでしょうか。 35ページ Q〔質問〕3. 自宅の屋根に設置していたソーラーシステム(太陽光発電装置)が災害で壊れてしまいました。まだローン(クレジット)が残っていますが支払義務はあるのでしょうか。 36ページ Q〔質問〕4. 今回の災害で、リース契約していたコピー機が壊れてしまいました。この場合でも、リース料金を払わなければならないのでしょうか。 36ページ Q〔質問〕5. 災害に便乗した悪徳商法に気づかず、契約を結んでしまいました。代金を支払わなければならないでしょうか。また、契約は取りやめられますか。 36ページ 8. 労働関係 37ページ Q〔質問〕1. 災害を理由に自宅待機(一時休業、一時帰休)を命じられました。従わなければならないでしょうか。 37ページ Q〔質問〕2. 未払賃金立替払制度とは、どのような制度ですか。 37ページ Q〔質問〕3. 被災したことを理由に、賃金を引き下げられてしまいましたが、仕方ないのでしょうか。 37ページ Q〔質問〕4. 勤務先に向かう途中に被災し、けがをしました。会社からは、労災保険を支払っていないので、労災申請はできないと言われましたが、仕方ないのでしょうか。 38ページ Q〔質問〕5. 今回の災害の影響により会社の業績が悪化したという理由で、解雇(雇止め)されました。 38ページ Q〔質問〕6. 災害の発生後、しばらく勤務先と連絡が取れない状態でしたが、昨日になって突然、解雇されました。解雇は仕方ないのでしょうか。 38ページ Q〔質問〕7. 派遣先が被災し、派遣先での業務ができなくなったことや、派遣先と派遣元の労働者派遣契約が中途解約されたことにより、派遣元が派遣労働者を即時解雇することは許されるのでしょうか。 39ページ Q〔質問〕8. 災害前から給与の未払があったのですが、災害が起きたためそのままにしていました。これからでも請求できるでしょうか。 39ページ 9. 損害賠償関係 40ページ Q〔質問〕1. 災害で自宅の塀が倒壊して、隣家の車を傷つけてしまいました。私に責任がありますか。 40ページ Q〔質問〕2. 災害の影響で、自宅の隣地にある擁壁が一部壊れています。今後、さらなる災害等により、擁壁がさらに崩れて自宅を壊した場合、隣地所有者に損害賠償請求ができるのでしょうか。 40ページ Q〔質問〕3. 災害で家が半壊となり、修理をお願いすることにしました。修理の間、大工さんに合い鍵を渡していたのですが、大工さんは家の鍵を掛けないまま帰っていたため、家に空き巣が入り、高価品が盗まれてしまいました。大工さんに何か言えないでしょうか。 40ページ Q〔質問〕4. 災害により私が所有している山の一部が崩れ、他家所有の水路をふさいでしまいました。損害賠償責任を負うのでしょうか。 41ページ 10. 税金関係 42ページ Q〔質問〕1. 私は、サラリーマン(または年金受給者)なのですが、災害による被害を受けた場合、支給される給与(または年金)について、源泉徴収の猶予や源泉所得税の還付を受けられますか。 42ページ Q〔質問〕1. 私は個人で事業を行っているのですが、災害により、事業用資産が損害を受けました。この場合の所得税の取扱いはどうなりますか。 42ページ Q〔質問〕3. 私は、被災して、勤務先から災害見舞金をもらいました。災害見舞金について所得税は課税されるのでしょうか。また、勤務先から、生活の資金として、無利息で貸付を受けていますが、税金が発生することはありませんか。 42ページ Q〔質問〕5. 災害で自宅や家財道具に損害が発生しました。所得税の減免はありますか。 43ページ 11. 保険関係 44ページ Q〔質問〕1. 生命保険金を請求したいのですが、災害で自宅が倒壊し、必要な資料が準備できそうにありません。どういう資料を準備すればよいのでしょうか。 44ページ Q〔質問〕2. 今回の災害で保険証券が無くなってしまいました。どのようにして保険金請求をすればよいのでしょうか。 44ページ Q〔質問〕3. 災害により死亡した者の死亡保険金の受取人は誰になるのでしょうか。 44ページ 12. その他 45ページ Q〔質問〕1. 今回の災害で預金通帳や印鑑を紛失しました。通帳等がなければ預金を引き出すことはできないのですか。 45ページ Q〔質問〕2. 被災した他人の家屋の中から生活用品を持ち去った場合には、罪に問われるでしょうか。 45ページ Q〔質問〕3. 今回の災害により、民事調停の申立手数料が免除されると聞きました。 45ページ Q〔質問〕4. 今回の災害により、運転免許のような許認可等について、存続期間(有効期間)が延長されると聞きました。 45ページ Q〔質問〕5. 今回の災害により、事業報告書の提出や薬局の休廃止等の届出のような履行期限のある法令上の義務が履行できなかった場合は、どうなるのでしょうか。 45ページ Q〔質問〕6. 私は外国人です。今回の災害により、本来定められている期間内に在留諸申請をすることができませんでしたが、どうなるのでしょうか。 46ページ 目次終わり 7ページ 2. 各種支援制度 Q〔質問〕1. 災害弔慰金の支給内容について教えて下さい。 A〔回答〕 今回のような自然災害で亡くなられた方の遺族は、災害弔慰金の支給を受けられる場合があります。支給額は、生計維持者の方が死亡した場合は500万円、その他の方が死亡した場合は250万円です。 ○ 災害弔慰金が支給される遺族の範囲は、配偶者(内縁配偶者を含みます。事実上離婚したと同様の事情であった場合は除きます)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。兄弟姉妹は、配偶者、子、父母、孫、祖父母のいずれもいない場合で、死亡した方と同居していたか、生計を同じくしていた方に限られます。 ○ 支給に関しては、遺族のなかで優先順位が定められています。 ○ 支給は、市町村が条例に基づいて行うことになります。 ○ 申請は、死亡された方の被災時の住所地であった市町村に対して行います。 ○ 災害弔慰金として支給を受けた金銭は、差し押さえることができません。 ○ 詳細は、市町村の窓口にお問い合わせください。 Q〔質問〕2. 災害により重い障害を負いました。何か支援制度はありませんか。 A〔回答〕 災害障害見舞金が受けられる場合があります。支給額は、生計維持者の方が重い障害を負った場合は250万円、その他の方が重い障害を負った場合は125万円です。 ○ 災害により重い障害(両眼失明、要常時介護、両上肢ひじ関節以上切断等)になった場合に災害障害見舞金を受けられます。 ○ 詳細は、市町村の窓口にお問い合わせください。 Q〔質問〕3. 災害後、避難所生活をしていたところ、私の父が亡くなりました。そこで、災害弔慰金の支給を申請しましたが、認められませんでした。このままあきらめた方が良いのでしょうか。 A〔回答〕 審査請求を申立てて、もう一度審査をしてもらうことにより、判定が変わることがあり得ます。また、不支給決定に対する取消訴訟を提起することもできます。早急に専門家にご相談ください。 ○ いわゆる災害関連死(災害による負傷等の悪化や避難所等における生活の肉体的・精神的疲労等から体調を崩し死亡した場合)の問題です。「災害弔慰金の支給等に関する法律」では、災害弔慰金は、「災害により死亡」した場合に支給されるとしているため災害と死亡の関連性が問題となります。 ○ 「災害により死亡」した場合が、どのような場合かについて、明確な基準はありません。災害を直接の原因として死亡した場合に限るものではなく、災害と死亡との間に因果関係がある場合は「災害により死亡」した場合に該当し得ます。 ○ 不支給となっても、あらためて申請して事情をしっかりと説明し直すことで、異なる判定が示されることもあります。どのように事情を説明すればよいか、早急に弁護士にご相談なさってください。 ○ 災害弔慰金の決定に不服がある場合は、決定を知った日の翌日から3か月以内に、その決定をした市町村長に対し、審査請求をすることができます。 ○ 不支給決定を知った日(審査請求をしたときは、その審査請求に対する裁決があったことを知った日)の翌日から6か月以内に、決定をなした市町村を被告として裁判所に不支給決定の処分の取消訴訟を提起することができます。 8ページ ○ 災害弔慰金に関しては従来、不支給の理由が具体的に示されないなどの問題点が指摘されています。お悩みでしたら、早急に弁護士に相談されることをおすすめします。 Q〔質問〕4. 高齢の親戚が住む家が災害で全壊したため、親戚はアパートを借りて生活しています。親戚は年金も受給していないため、生活保護を考えているようです。生活保護を申請したいのですが、どうすればいいですか。 A〔回答〕 福祉事務所の生活保護に関する窓口に行き、保護申請を行う必要があります。 ○ 申請すると、預貯金・保険・不動産等の資産、扶養義務者による扶養の可否、年金等の社会保障給付・就労収入等、就労の可能性が調査されます。 ○ 調査後、保護費の支給や保護施設への入所等が決定されます。 ○ 生活保護を受給するには、自分の持っている資産や能力等を活用しても、なお生活が困窮しているという条件(補足性の原理)を満たす必要があります。 ○ 生活保護の申請についてお困りでしたら、弁護士等の専門家にご相談なさってください。高齢者・障害者・ホームレス等で自ら生活保護の申請ができない方や、生活保護の受給資格を有するにもかかわらず受給に困難をきたしている方などについて、人権救済の必要があり、収入等に関する一定の要件を満たしていれば、弁護士を通じて法テラスに日本弁護士連合会委託援助業務「高齢者・障害者・ホームレス等に対する法律援助」の利用を申し込むこともできます。 Q〔質問〕5. 災害により住宅が被害を受けた場合、住宅の再建・補修のための援助制度には、どのようなものがありますか。 A〔回答〕 以下のような制度があります。なお、自治体によっては利用できない制度もありますので、制度の利用の可否や支援金額など、詳しくは各自治体にお尋ねになってください。 (1)被災者生活再建支援法に基づく支援制度 (2)災害救助法に基づく応急修理制度 (3)自治体による融資制度 (4)住宅金融支援機構の災害復興住宅融資制度 (1)被災者生活再建支援法に基づく支援制度 一定規模以上の災害により、住宅が全壊や大規模半壊など、生活基盤に著しい被害を受けた世帯について、居宅被害の程度に応じて支給される基礎支援金と、住宅再建方法に応じて支給される加算支援金の最大300万円の支援金が支給される制度です(金額は次のとおり。ただし、単身世帯の場合は4分の3となります)。 【表2つ】 1. 基礎支援金 住宅の被害程度〔と、これに対応する〕基礎支援金 全壊 100万円/解体 100万円/長期避難 100万円/大規模半壊 50万円 2. 加算支援金 住宅の再建方法〔と、これに対応する〕加算支給額 建設・購入 200万円/補修 100万円/賃借(公営住宅以外) 50万円 【表終わり】 9ページ 基礎支援金の支給には、罹災《りさい》証明書が必要となります。加算支援金の支給には、再建方法がわかる資料が必要となります。 基礎支援金の申請期間は災害発生日から13か月間、加算支援金の申請期間は同じく37か月間となりますので注意しましょう。申請窓口は市町村となります。 住宅の居住者が対象ですので、賃貸住宅の場合は貸主ではなく借主世帯に支援金が支給されます。 被災状況により、この制度を利用できる自治体と利用できない自治体があります。また、自治体によっては、被災者生活再建支援制度に上乗せして、再建支援事業を実施している自治体がありますので、自治体に問い合わせをしてみてください。 (2)災害救助法に基づく応急修理制度 住宅が半壊又は半壊に準ずる程度に損傷(準半壊)したものの、自ら修理する資力のない世帯について、これを修理することにより被災者が仮設住宅等に入居しなくなると見込まれるに場合に、市町村が被災者に代わって直接修理を行うものです。 なお、この制度を利用した場合には、仮設住宅等への入居を断られる場合もありますので、注意が必要です。 利用条件、申請方法、申請期間等は市町村にお問い合わせ下さい。 (3)自治体による融資制度 自治体によっては、災害時に住宅再建支援のための融資等を行っていますので、都道府県または市町村にお問い合わせください。 (4)住宅金融支援機構の災害復興住宅融資制度 住宅金融支援機構の災害復興住宅融資制度は、災害により被害を受けた住宅の所有者または当該住宅に住んでいた方で、地方公共団体から「罹災《りさい》証明書」を交付されている方が、住宅を建設、購入または補修される場合に、資金の融資が受けられる制度です。 建設・購入の場合、住宅が「全壊」、「大規模半壊」または「半壊」した旨の「罹災《りさい》証明書」が必要なほか、融資条件や対象要件があります。 融資申込みは、お近くの災害復興住宅融資取扱金融機関の窓口、または、郵送により住宅金融支援機構郵送申込係に行うことになります。 詳しくは、災害復興住宅融資取扱金融機関あるいは住宅金融支援機構にお問い合わせ下さい。 (5)上記のような支援制度ではありませんが、住宅ローン等の債務を減免しうる制度として、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインがあります。 この「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づき、生活再建資金を手元に残した上での大幅な減額や免除が認められる可能性があります。この手続は、もっとも多額のローンを借りている金融機関に手続着手を申し出て、金融機関からの手続を進めることの同意を得ることによって、開始します。 詳しくは、利用の可否を含め最寄りの弁護士会にお問合せください。なお、借入先が銀行の場合には、全国銀行協会相談室(〔電話〕0570-017109 又は 03-5252-3772、平日9時から17時まで)へお問合せいただくことも可能です。 10ページ Q〔質問〕6. 公営住宅へ入居するためには、どうしたらよいですか。 A〔回答〕 地方公共団体が公営住宅を用意していますが、具体的な入居者選考の基準、申込みに必要となる手続き・書類、入居に当たっての条件等については、地方公共団体ごとに異なっていますので、各地方公共団体窓口にお問い合わせください。 ○ 低所得の被災者の方は、各地方公共団体が整備する公営住宅に入居することができます。公営住宅の家賃は収入に応じて決められますが、必要があると認められる場合には、一定期間、家賃が減免されることがあります。 ○ 災害によって住宅を失い、現に住宅に困窮していることが明らかな方という住宅困難要件があります。そのほか、公営住宅に入居できる世帯の資格要件は、地方公共団体の窓口に問い合わせてください。 Q〔質問〕7. 災害により、住んでいた建物が半壊してしまいました。役所から罹災《りさい》証明書を出してもらおうとしたところ、住民票の住所と異なるということで、出してもらえませんでした。あきらめるしかないのでしょうか。 A〔回答〕 罹災《りさい》証明書を受けられる可能性はあります。 ○ 建物の罹災《りさい》証明書は、所有者か居住者であれば受けられます。 ○ 居住者といえるために、住民票が必ず必要というわけではありません。 ○ 公共料金の支払などの資料で、生活実態があることを説明してみてください。 ○ 役所の認定に不満がある場合には、弁護士などの専門家にご相談ください。 Q〔質問〕8. 災害で自宅が浸水しました。浸水被害の場合でも、罹災《りさい》証明書を出してもらうことはできますか。 A〔回答〕 浸水被害の場合でも、被害程度に応じて判定を受け、罹災《りさい》証明書を出してもらうことができます。被災状況を写真・動画で撮影し、記録に残しておかれることをお勧めします。 ○ 被害程度は、「全壊」「大規模半壊」「半壊」「準半壊」「準半壊にいたらない(一部損壊)」に区分されます。 ○ 例えば、木造・プレハブ住宅について、住家流失又は床上 1.8m以上の浸水の場合は「全壊」と認定されます。また、床上1m以上1.8m未満の浸水の場合は「大規模半壊」、床上1m未満の浸水の場合は「半壊」、床下浸水の場合は「準半壊にいたらない(一部損壊)」と認定されます。 ○ 被害程度の判定に納得のいかない場合は、弁護士など専門家にご相談ください。 Q〔質問〕9. 災害で自宅が半壊となりました。仮設住宅への入居を申し込もうとしたところ、全壊でないと入居できないと言われました。自治体ごとに、入居条件は異なるのでしょうか。 A〔回答〕 自治体ごとに入居条件が異なることがあります。仮設住宅のある自治体にご相談下さい。 Q〔質問〕10. 災害で自宅が損壊したため、取り壊して立て直しをすることを考えています。被災後、仮の住まいとしてアパートを借り、加算支援金(賃借)の支給を受けましたが、さらに、加算支援金(建設)の支給を受けることができますか。 A〔回答〕 加算支援金(建設)の支給が受けられます。ただし、既に支給を受けた分は控除されます。 11ページ ○ 被災者生活再建支援制度においては、建設・購入の場合に200万円(単身世帯は4分の3の150万円)、賃借の場合に50万円(単身世帯は4分の3の37万5000円)の加算支援金が支給されます。 ○ 一度、賃借の加算支援金の支給を受けた後でも、建設・購入の加算支援金は支給を受けることができます。ただし、既に支給を受けた分は控除されます。 ○ したがって、賃借の加算支援金50万円の支給を受けた後でも、建設の加算支援金200万円から50万円を控除した150万円の支給を受けることができます。 ○ 単身世帯の場合は、賃借の加算支援金37万5000円を受けた後でも、建設の加算支援金150万円から37万5000円を控除した112万5000円の支給を受けることができます。 Q〔質問〕11. 被災者生活再建支援制度に上乗せする再建支援制度はありますか。 A〔回答〕 被災者生活再建支援制度に上乗せして、再建支援事業を実施している自治体があります。自治体に問い合わせをしてみてください。 ○ 例えば、東日本大震災の際、岩手県では、県と市町村が共同で、被災者住宅再建支援事業を実施しており、最大100万円の補助金が支給されました。 ○ その他、自治体独自の支援事業を実施している場合もありますので、自治体に問い合わせをしてみてください。 Q〔質問〕12. 災害で家屋が損傷を受けました。自治体の負担で応急修理をしてもらえると聞いたので修理をお願いしました。その後、仮設住宅に入居を申請したところ、応急修理をしたため、入居できないと断られました。入居は無理なのでしょうか。 A〔回答〕 自治体の規定により、入居できない可能性はあります。 ○ お問い合わせの応急修理とは、災害救助法に基づく住宅の応急修理と思われます。 ○ 応急修理は引き続きその住宅に居住することを前提としています。そのため、「仮設住宅に入居しないこと」を応急修理の条件としている自治体が多いようです。 ○ なお、応急修理の期間中であれば仮設住宅へ入居できる場合もありますが、あくまでも一時的なもので、応急修理が完了すれば速やかに退去しなければなりません。 ○ したがって、あなたがお住まいの自治体において、「仮設住宅に入居しないこと」が応急修理の条件になっている場合には、残念ながら、仮設住宅への入居は難しいものと思われます。 ○ もっとも、かなり限定的ではありますが、自治体によっては個別の状況に応じて仮設住宅への入居を認める場合もあるようです。お困りでしたら、弁護士など専門家にご相談なさることをお勧めします。 Q〔質問〕13. 災害で仕事と財産を失った外国人も生活保護を受けられますか。 A〔回答〕 永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等といった在留資格等を有する外国人であれば、生活保護の対象者になり得ます。 ○ 外国人が生活保護を受ける権利は、法律上の権利として保障されているわけではありません。 ○ しかし、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない永住、定住等の在留資格をもつ外国人については、生活保護法を準用し、生活保護の認定を受けることが可能となっています。 12ページ Q〔質問〕14. 今回の災害が原因で生活が困窮しています。生活資金を借りるための制度はありませんか。 A〔回答〕 「災害援護資金」の貸付制度、「生活福祉資金」の貸付制度などがあります。 ○ 「災害援護資金」は、災害により負傷または住居・家財の損害を受けた方に対して、生活の再建に必要な資金を貸し付ける制度です。一定の所得に満たない世帯の世帯主が対象です(世帯人数により所得の基準額が設けられています。)。詳しくは、それぞれの市町村にお問い合わせください。 ○ 「生活福祉資金」は、金融機関等からの借入が困難な低所得世帯、障害者・高齢者のいる世帯に対して、経済的な自立と生活の安定を図るために必要な経費を貸し付ける制度です。「生活福祉資金」には、「緊急小口資金」「福祉費(災害を受けたことにより臨時に必要となる経費)」のほか、「総合支援資金」「教育支援資金」などがあります。詳しくは、お近くの社会福祉協議会にお問い合わせください。 ○ これらは貸付制度ですので、借り受けた資金は将来的に返済する必要があります。 ○ なお、災害時には、勝手に申込みを代行しておいて後から代行手数料と称して金銭を請求してきたり、「返済を免れる抜け道がある」などと虚偽の情報を教えながら情報提供料と称して金銭を請求してきたりする、悪質な手口が横行します。不審に思われたときは、市町村や社会福祉協議会の窓口に直接お問い合わせください。 Q〔質問〕15. 損傷(全壊・半壊)した家屋のがれきや、自宅の敷地内に流れ込んだゴミ・がれきなどを撤去したいのですが、撤去費用について、何か支援制度はありませんか。 A〔回答〕 災害等廃棄物処理事業として、支援を受けられる場合があります。お住まいの市町村にご相談なさってください。 ○ 被災者が自費で業者に依頼して、ゴミ・がれきなどを撤去した後でも、罹災《りさい》証明書や撤去作業に関する領収書、作業前後の現場写真などを添えて市町村に申し込むことで、撤去費用の支払いを受けることができます。 ○ 撤去に必要な範囲での支払いとなります。なお、撤去したものが土砂や流木などの自然物だけのときは、「廃棄物」には該当しないため、この事業の対象とはならないことに注意してください。 ○ 詳しくは、(可能であれば撤去前に)お住まいの市町村にご相談なさってください。 13ページ 3. 借入・ローン関係 Q〔質問〕1. 以前から借金の返済に苦労していましたが、災害の影響で収入が減少し、いよいよ返済が困難となりました。どうすればよいですか。 A〔回答〕 借金(債務)について、債務整理をすることが考えられます。 〇 借金(債務)の返済が困難な状況であれば、早急に債務整理を行う必要があります。 ○ 債務整理とは、借金の減額、免除又は支払の猶予を目的として、利息制限法や、手続についての法律(破産法等)を使って、債務の整理をして、債務者の経済生活を立て直していく手続のことです。 ○ 債務整理には、主に、(1)任意整理、(2)破産手続、(3)個人再生手続、(4)特定調停の方法があります。また、状況によっては「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を利用できる可能性があります。 ○ いずれの方法についても、それぞれにメリットとデメリットがありますので、手続の比較、ご不安な点などについて、弁護士や司法書士等の専門家と相談しながら進めていかれるのがよいでしょう。 Q〔質問〕2. 市役所から土砂の流出による災害から宅地を守るための工事を行うよう勧告を受けましたが、費用がありません。どうしたらよいでしょうか。 A〔回答〕 住宅金融支援機構の宅地防災工事資金融資制度があります。 ○ 地方公共団体から、宅地を土砂の流出などによる災害から守るための工事を行うよう勧告又は改善命令を受けた方に必要な資金を融資する制度です。 ○ 申し込めるのは、(1)のり面の保護、(2)排水施設の設置、(3)整理、(4)擁壁の設置(旧擁壁の設置を含む)になります。 ○ 融資の申込みは、お近くの機構融資取扱金融機関窓口、または、郵送により住宅金融支援機構に行うことになります。 ○ 給付ではなく返済が必要となりますので、ご注意ください(金利も発生します)。 ○ 融資条件、手続等、詳しくは、住宅金融支援機構にお問い合わせ下さい。 Q〔質問〕3. 災害の影響で住宅ローンの支払が苦しくなりました。どうしたらよいでしょうか。 A〔回答〕 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づき、生活再建の資金を残した上での住宅ローンなどの債務の減免を受けられる可能性があります。まずは最寄りの弁護士会に相談してください。また、破産や個人再生といった法的手続により債務の整理をすることができます。 ○ 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づき、生活再建資金を手元に残した上での大幅な減額や免除が認められる可能性があります。この手続は、もっとも多額のローンを借りている金融機関に手続着手を申し出、金融機関からの手続を進めることの同意を得ることによって、開始します。現状を説明し、相談されるとよいでしょう。 ○ また、住宅ローン等の債務の支払ができなくなった場合、破産や個人再生といった法的手続をとることにより、債務を整理することができます。具体的には、破産では、免責により債務の支払責任を免れることになり、個人再生では、所定の額を原則3年の分割払いをし、残額が免除となります(住宅ローンについては、異なる取り扱いとなる場合があります。詳しくは弁護士等にご相談ください。)。 ○ 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」において債務が免除された場合と、破産を申し立てて免責が認められた場合の違いは、(1)手元に残せる自由財産の枠(ガイドラインの場合、通常の破産手続より多くの財産を手元に残せる可能性があります)、(2)信用情報登録機関への登録(ガイドラインの場合、信用情報登録機関に登録されませんので、住宅再建・生活再建のための新たな借り入れをすることが可能です)、(3)保証人への請求がなされるか(ガイドラインの場合、原則、保証人への請求はなされません)などです。 14ページ Q〔質問〕4. 破産を検討しています。今回の災害で車が破損したので、自身の配偶者が自己名義であらたに車を購入しました。私が破産した場合、その車を手放さなければならないのでしょうか。 A〔回答〕 原則として、手放す必要はありません。 ○ 破産では、破産者の財産を換価するものです。夫婦とはいえ、自身の財産と配偶者の財産は別個のものですので、配偶者の自動車が、自身の破産手続において、換価されることはないものと思われます。仮に、名義が配偶者というだけで、お金の支払いをすべて自身がしていたような場合には問題となりえますが、換価することになるかは、個々の破産手続において判断されることになります。詳しくは、弁護士など専門家に相談されることをおすすめします。 Q〔質問〕5. 災害で家を失ったため、お金を借りて家を建て直したいのですが、過去に債務整理をしています。お金を借りることはできないのでしょうか。 A〔回答〕 債務整理をしてから一定の年数が経っていれば、借り入れができる可能性はあります。一度、ご自分の信用情報を確認してみてください。 ○ 債務整理をすると、信用情報を取り扱う機関に登録されることにより、数年間は、借入れやクレジットカードの作成ができなくなります。 ○ 自分の信用情報については、取引をしている/していた金融機関が加盟している個人信用情報機関で、確認することができます。 ○ 信用情報機関は、クレジット会社・銀行・消費者金融のそれぞれの業界が設立し、利用しています。 ○ いずれの機関でも、登録されている自身の情報を確認することができますが、登録情報の確認の手段や手続は、各機関によって異なります。 ○ 手続の詳細については、各機関にご確認下さい。 ○ なお、信用情報機関から信用情報が抹消されたとしても、債務整理をされたときの取引金融機関からの借り入れはできない可能性もありますので、ご注意ください。また、借り入れが可能かどうかは、申込み時点の収入等によって異なることになりますので、ご注意ください。 Q〔質問〕6. 仕事がなくなり困っていたところ、「給与を前借りできる」という広告を見つけました。「貸金業ではない」とも書いてあるのですが、当面の生活費のために借り入れても問題ないでしょうか。 A〔回答〕 悪質な業者の可能性が高く、借り入れは危険です。公的な支援制度の利用を、ご検討ください。 ○ 災害よる混乱に乗じて、貸金業登録をしていない高利の貸金業者が利益を得ていると報じられています。「給与ファクタリング」等と名乗り、「前借りだから貸金ではない」と勧誘する例も報告されているようです。 ○ こういった業者から借入れを行うと、あっという間に利息の支払のために他の高利業者に借入れるという悪循環に陥ってしまいます。このQ&A中の「各種支援制度」に記載のある公的な支援制度の利用を検討してください。 ○ なお、金融庁も注意を呼び掛けています。 15ページ 金融庁ホームページ「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」 https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/kinyu_chuui2.html〔読み〕《エイチティーティーピーエス コロン スラッシュスラッシュ ダブリューダブリューダブリュー ドット エフエスエー ドット ジーオー ドット ジェイピー スラッシュ オーディナリー オーアールディアイエヌエーアールワイ スラッシュ チューイ シーエイチユーユーアイ スラッシュ キンユー ケーアイエヌワイユー アンダーバー チューイ シーエイチユーユーアイ 数字ニ ドット エイチティエムエル》(外部サイト) Q〔質問〕7. 災害後、生活が苦しくなりましたが、最近葉書が届いて、お金を貸してくれるとのことだったのでお願いしました。2万円を借りることになりましたが、手数料5000円を引かれ、実際には1万5000円しか振り込まれませんでした。その後、3万円も返済しましたが、まだ請求が来ます。どのようにしたら良いでしょうか。 A〔回答〕 相手の業者は、違法の金融業者(いわゆるヤミ金融)である可能性があり、法律上お金を返す必要がない場合があります。至急、警察や弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。 ○ 高額な手数料や、借入額に比べ、異常に返済額が高額であることからして、相手の業者はいわゆる「ヤミ金融」である可能性が高いです。 ○ いわゆる「ヤミ金融」は、出資法が規制する年20%(平成22年6月17日以前は年29.2%)を超える利率による利息の契約、支払要求、受領をする犯罪者です。これらの行為には、厳しい刑罰の規定が設けられており、犯罪行為です。 ○ ヤミ金の貸付は貸付行為を装い、暴利を要求するきっかけを作るものに過ぎないと言えます。法律は法律を破る者に力を貸さないという「クリーンハンズの原則」があり、この現れとして、不法の原因で給付を行った者は給付した物の返還請求ができないとする不法原因給付(民法708条)の規定があり、法律上返還義務がないと解されます。 ○ ヤミ金は貸付の際、勤務先や親族等の電話番号を聞き出し、返済をしなかったり、法的に対処した場合に、嫌がらせをして払わせようとすることが多くあります。早朝、深夜の取立行為、支払義務のない者への請求は貸金業規制法に禁止され、刑罰も設けられている社会的に認められない行為です。 ○ ヤミ金の脅しに屈して支払をしたり、毅然とした対応を取らない場合には、いつまでも関係が断ち切れないことになります。毅然と法的に対処し、以後は関係をもたないようにするべきでしょう。 Q〔質問〕8. 今回の災害により、法人の破産手続開始の決定が留保されると聞きました。 A〔回答〕 通常、破産手続きの申立ては、債務者自らがする場合のほか、債権者もすることができますが、今回の災害により債務超過に陥った法人に対しては、法人が清算中である場合または法人が支払不能である場合を除いて、令和7年12月31日までの間、裁判所による破産手続開始の決定はされません。 ○ この措置は、個人の破産手続きについては適用されません。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 16ページ 4. 土地・建物関係 Q〔質問〕1. 災害により被害を受けた場合、住宅の補修のための支援制度には、どのようなものがありますか。 A〔回答〕 災害救助法に基づく応急修理制度があります。 制度の利用の可否や支援金額など、詳しくは各自治体にお尋ねになってください。 ○ 住宅が半壊又は半壊に準ずる程度に損傷(準半壊)したものの自ら修理する資力のない世帯、住宅が大規模な補修を行わなければ居住することが困難である程度に半壊(大規模半壊)した世帯について、これを修理することにより被災者が仮設住宅等に入居しなくなると見込まれる場合に、市町村が被災者に代わって直接修理を行うものです。 ○ 被災者が仮設住宅等に入居しなくなると見込まれることが条件になりますので、応急修理制度を利用することによって、仮設住宅等に入居できなくなる場合があります。 ○ 補修費用の基準額は、半壊の場合は59万5000円まで、半壊に準ずる程度の損傷(準半壊)の場合は30万円までとなっています(自治体によっては上乗せ支援をしているところがあります。)。限度額を超える部分は、自己負担となります。 ○ 市町村が指定する工事業者を利用しなければなりません。 ○ 応急修理は、災害発生から1か月以内に完了することとされています。各地の被災状況に応じて、この期間は延長されますが、なるべくお早めにお問い合わせください。 ○ 住宅が半壊以上の被害を受け、応急修理の期間が1か月を超えると見込まれるときは、一時的に仮設住宅へ入居できる場合があります。ただし、入居できる期間は災害発生から原則6か月で、応急修理が完了すれば速やかに退去しなければなりません。 ○ 利用条件、申請方法、申請期間等は市町村にお問い合わせ下さい。 ○ 住宅の補修のための支援制度としては、上記の災害救助法に基づく応急修理制度のほか、「被災者生活再建支援法による支援制度」、「住宅金融支援機構の災害復興住宅融資制度」があります。 Q〔質問〕2. 災害で家屋が壊れたところ、市役所の職員を名乗る人が来て、家の持ち主は修繕をすることが義務なので、早く修繕を依頼するよう勧めてきました。本当でしょうか。 A〔回答〕 修繕の義務はありませんので、修繕の依頼をするのは、市役所に確認してからにして下さい。 ○ 家屋は私有財産なので、たとえ壊れても、修繕をするか否かは所有者の自由であり、修繕の義務はありません。 ○ お問い合わせの事案は、「かたり商法」と呼ばれるものと思われます。官公庁等を名乗り信頼させて、勧誘行為を行うものです。 ○ 被害にあってしまった場合、まだ代金を払っていないが不審に思われる場合は、消費生活センターにご相談するとよいでしょう。 ○ ただし、家屋が倒壊し、近隣の住居等が被害を受けた場合などは不法行為責任(損害の賠償等)を負う場合がありますので、お早目に専門家にご相談するようにしましょう。 Q〔質問〕3. 「修理詐欺」で家が災害発生前よりひどい状態になってしまいました。代金を支払わなければならないでしょうか。 A〔回答〕 クーリングオフによる契約解除、詐欺を理由とする取消し、錯誤無効の主張、消費者契約法による取消しなどをすることにより、代金の支払を拒むことができることがあります。 17ページ ○ 修理詐欺とは、「修理しないと大変なことになる」などと不安をあおるようなことをいい、不必要な補修工事を高額で契約させるものです。自治体職員を装って訪問するケースもあるので注意しましょう。 ○ クーリングオフは、原則として、特定商取引法で規定する取引のうち、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供及び業務提供誘引販売取引について認められます。 ○ これらの取引では、消費者が契約内容を落ち着いて考える余裕がなかったり、商品に関する情報が少なく判断を間違えたり、予想外の損害を被ったりするおそれがあるためです。 ○ クーリングオフの期間は、原則として、契約書面を受け取った日から8日(一部の取引については20日)以内です。 ○ 自営業(個人事業主)の方の営業上の取引は、クーリングオフ制度の対象外です。 ○ クーリングオフが認められない場合でも、消費者契約法、民法などの規定により、契約の無効や取消しを主張できることがあります。 ○ お困りでしたら、消費生活センター、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕4. 災害で分譲マンションの一部が壊れてしまいましたが、修復することはできますか。そのためにはどのような手続が必要でしょうか。 A〔回答〕 各区分所有者の「専有部分」については、自己の責任と費用で修理するのが原則です。「共用部分」については、損傷の程度によって手続が異なります。 ○ 「共用部分」については、損傷の程度によって、以下の決議が必要になります。 1. 損傷が軽度で建物が滅失した(建物の全部または一部が確定的に効用を喪失している状態)とまではいえない場合は、共用部分の管理の一環として、集会の普通決議によって修理できます。 2. 小規模滅失(建物の価格の2分の1以下の滅失)の場合は、集会の普通決議(規約で別段の定めをすることも可能)によって建物の復旧工事ができます。 3. 大規模滅失(建物の価格の2分の1以上の滅失)の場合は、復旧工事のために区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成が必要です。賛成しなかった区分所有者には、区分所有権を賛成者に買い取らせることが認められます。 4. 全部滅失(建物といえない状態)の場合は、民法にしたがい、敷地共有者全員の同意がないと建物を再建できないのが原則ですが、大規模な災害により建物が滅失した場合には、特例により、敷地共有持分の価格の5分の4以上の賛成で再建することが可能となります。 5. 被災の程度にかかわらず、建て替え決議(区分所有権および議決権の各5分の4以上の多数)があれば、建て替えは可能です。 Q〔質問〕5. 災害で石垣が崩れたので、施工業者に修繕をお願いしました。契約時に工事代金の半額を支払いましたが、工事完了予定日をすぎてもまだ工事が完了していません。施工業者は、残金をもらうまでは、工事をしないといっています。残金を支払わなければならないのでしょうか。 A〔回答〕 原則として、工事が完成した後に、残金を支払えばたりますので、施工業者に工事完了を要求することができます。契約書で、請負代金の支払時期を確認してください。 ○ 請負契約においては、原則として、仕事が完成した後に、報酬を支払うことになります。 ○ もっとも、契約で、異なる定めをすることができますので、請負契約書で、代金の支払時期を確認されるとよいでしょう。 18ページ Q〔質問〕6. 災害により隣の敷地から土砂が流れてきて、私の家の敷地と隣家の敷地の境界がわからなくなりました。話合いをしましたが、お互い譲らず話合いがつきません。どうしたらよいですか。 A〔回答〕 私法上の境界の問題であれば、当事者で話し合い、解決するのが一番ですが、訴訟や調停を利用することなども考えられます。また、公法上の境界の問題であれば、私人間で勝手に取り決めることはできず、境界確定訴訟を提起することになります。境界確定訴訟に比べて簡易迅速な手続である筆界特定制度も利用できます。 ○ 境界には2つの意味があります。1つは私法上の境界、もう1つは公法上の境界です。 ○ 私法上の境界は、土地の所有権の範囲の問題であり、隣接する土地の所有権の境目を意味します(所有権界)。土地所有権の範囲をどこまでにするかは、当事者間の合意によって決めることができます。合意が整わないときは、調停、あっせん、訴訟などにより解決することになります。 ○ 公法上の境界は、筆《ひつ》(土地登記簿の土地の個数の単位で、地番を付されて区画されたもの)を異にして隣接する土地の境目(筆界《ひっかい》)です。公法上の境界は、国のみが定められるものであって、性質上、最初から客観的に定まっており、関係当事者の合意によって決めることはできません。争いがあれば、裁判所に境界確定の訴えを提起します。 ○ 境界確定訴訟に比べて簡易迅速な手続である筆界特定制度も利用できます。詳しくは、最寄りの法務局にご相談ください。 ○ いずれの場合でも、測量が必要となった場合には、測量費用負担の問題が生じます。民法では、土地の広狭に応じて負担すると定められていますが、測量費用の折半もしくは測量を申し入れた側が全額負担とする場合もあります。 Q〔質問〕7. 事業資金借入の担保として金融機関の抵当に入っていた自宅建物が、災害による土砂で流されて滅失してしまいました。この場合、抵当権はどうなりますか。 A〔回答〕 担保に入れている家屋が全壊したり、土砂に流されたりして滅失すれば、家屋に設定されていた抵当権も、目的物(家屋)の滅失により消滅します。 抵当権が消滅した場合は、ただちに残金全額を支払うこと、または代わりの担保提供をすることが、契約上義務付けられていることが多いようです。しかし、大災害の場合には、金融機関が、残金全額を直ちに取り立てることはせず、追加の担保を要求しないなど特別な対応をしているケースも多いようですので、借り入れをしている(抵当権者である)金融機関窓口に相談してみてください。 ○ 今回の災害のような自然災害による場合を含めて、抵当権など担保の目的物が消滅した場合には、契約上、債務者はただちに期限の利益を喪失し残金を支払う義務があることの取決め(「一般に期限の利益喪失約款」といいます。)や、追加の担保を提供する義務(増担保提供義務)が定められていることが多いようです。 ○ もっとも、上記のような特約(期限の利益喪失約款、増担保提供義務)があっても、大災害時には、金融機関で、残金全額を直ちに取り立てることはせず、追加の担保を要求しないなど、特別な対応をしているケースも多いようです。 ○ 損害保険に加入している場合には、建物が滅失したことで得られる保険金請求権にも抵当権の効力が及び、その保険金から債権回収が図られます(物上代位)。ただし、大災害時には、保険金が直接被災者に渡るような特例措置が取られることもあります。 19ページ ○ 建物の底地(土地)と建物の所有者が同じ場合には、建物以外にもその底地である土地に共同抵当権が設定されていることがほとんどです。この場合には土地に設定された抵当権は存続し、増担保が要求されるかどうかの判断には、土地の評価額も考慮されます。 ○ 建物が借地上に建っている場合には、借地上の建物に設定された抵当権の効力は借地権にも及びますので、建物が滅失した場合には借地権に及んでいた抵当権の効力も消滅します。 ○ なお、建物の損壊の程度によっては、建物が「滅失」したかどうかの判断が難しく、注意が必要です。滅失していない(修理が可能な場合など)のに勝手に取り壊してしまった場合、担保維持義務違反となり抵当権者から損害賠償請求される可能性もあります。 Q〔質問〕9. 市役所から、私の家の損壊状況について調べるために訪問するとの連絡がありました。市役所がそのような調査をすることはありますか。また何のために家の損壊状態を調べるのですか。 A〔回答〕 市役所が住宅の損壊状態の調査をすることはあります。その目的としては、「応急危険度判定」のためのもの、または「罹災《りさい》証明のための調査」が考えられます。ただし、市役所の調査をかたる詐欺等もありますので、注意しましょう。 ○ 「応急危険度判定」とは、被災した建築物は、建物の一部が落下・転倒する二次災害が発生したりするおそれがあることから、専門家(応急危険度判定員)により倒壊等の危険性と使用の可否を早期に判定し、周知するための制度です。 ○ 「罹災《りさい》証明」とは、災害により家屋が損壊した場合に、市町村長がその程度を判定し証明するものです。保険の請求や税の減免などの手続に必要とされます。大規模災害が発生した場合に行われる各種救援措置も、この「罹災《りさい》証明」に基づいて実施されます。 ○ 災害後、点検や調査と称して訪問し、不必要な工事や不当に高額な工事をさせるリフォーム詐欺が発生することがあります。何のための調査か分からないときや、不審な点がある場合は市町村に確認するなどするとよいでしょう。 Q〔質問〕10. 今回の災害で隣家が大きく傾きました。次に自然災害が発生したら、自分の家に倒れかかりそうです。隣家は長い間空き家で、誰に言えばいいかも分かりません。自分で隣家を壊してもいいのでしょうか。 A〔回答〕 隣人の承諾無く、隣家を壊すことは、原則としてできません。 ○ 隣家を無断で壊すことは、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。また、建造物損壊罪という犯罪にも該当するものと思われます。 ○ ただし、危険が迫っている場合に、隣家を壊すこと(自力救済)が例外的に許されることもありえます。個別に判断せざるを得ませんので、早めに弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。 ○ なお、空き家で誰に言えばいいか分からないとの点ですが、隣家の不動産登記から誰が所有者か分かりますので、登記簿から判明した所有者に連絡して、倒壊防止措置などについて話し合いをすることも考えられます。もっとも、長い間空き家ということですから、登記簿上の所有者が亡くなっている可能性もあります。その場合は、やはり弁護士等の専門家にご相談されたほうが良いでしょう。 Q〔質問〕11. 災害で、隣の土地の擁壁が損傷しました。いつ擁壁が崩壊し地盤が崩落してくるか心配です。どうしたらよいでしょうか。 20ページ A〔回答〕 所有権に基づく妨害予防請求により、隣地所有者に対し、地盤が崩落する危険を防止するための措置を求めることができるものと思われます。詳しくは、弁護士・司法書士等の専門家にご相談することをおすすめします。 ○ 他人の所有物ですので、無断で工事などをした場合には、不法行為に基づく損害賠償請求など責任を追求されるおそれがありますので、注意が必要です。 21ページ 5. 賃貸借関係 Q〔質問〕1. 賃貸住宅に住んでいるのですが、災害の影響で建物の一部が使用できなくなりました。賃料の減額を請求することはできないでしょうか。 A〔回答〕 損傷の程度によっては、減額の請求をすることができます。 ○ 建物の損傷が、建物の一部滅失といえるほど大きなものであれば、賃料減額請求が認められます。その場合は、滅失した部分の割合に応じて、減額されることになります。ただし、賃貸人と協議することもなく、一方的に減額の額を決めて支払った場合には、契約解除等の紛争が発生することがありますので、注意が必要です。 ○ 建物の「滅失」とは、建物の損壊の程度がひどく、建物としての「効用を失った状態」をいいます。賃貸人と減額について合意することができず、裁判所での手続を利用する場合には、まず民事調停を起こす必要があります。民事調停における話合いで合意することができずに不成立となった場合には、訴訟を起こすことができます。 ○ 裁判所での手続以外の紛争解決の手段としては、弁護士会の仲裁手続(紛争当事者の合意に基づき、弁護士が仲裁人となって、双方の主張を聞いたうえで、解決のための判断を示し、当事者がこの判断に拘束される手続)等、裁判外の紛争解決手続(ADR)を利用する選択肢もあります。 ○ 建物の一部が滅失し、残りの部分だけでは、居住することができない場合(賃貸借契約の目的を達することができない場合)には、賃貸借契約を解除することができます。 ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されますので、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃借人が請求しなくても、使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて賃料は減額されます。もっとも、賃貸人と協議することもなく、一方的に減額後の賃料額を決めて支払った場合には、契約解除等の紛争が発生することがありますので、改正前と同じく、注意が必要です。 Q〔質問〕2. 災害の影響で、賃料を滞納してしまったところ、大家さんに部屋の鍵を付替えられてしまいました。仕方ないのでしょうか。 A〔回答〕 賃料の滞納があったからといって、鍵を付け替えることはできません。契約を解除せずに使用を妨げることは債務不履行になり(不法行為と考えることもできます。)、生じた損害の賠償を請求することができます。また、賃借人に無断で開錠して鍵を付け替えたことになりますので、刑法上の器物損壊罪、住居侵入罪に該当する可能性もあります。 ○ 建物賃貸借契約では、賃貸人(大家さん)は賃借人に貸した建物(部屋)を使わせる義務があり、賃借人は賃貸人に賃料を支払う義務があります。 ○ 賃借人が賃料の支払を怠った場合も、賃貸借契約が直ちに終了するわけではなく、契約を解除しない限りは、賃貸人の義務(部屋を使わせる義務)は消滅するものではありません。鍵を付け替えて部屋に入ることができなくすることは、この義務の不履行にあたります。なお、賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の信頼関係に基づく継続的な契約であるため、判例上、ささいな債務不履行(例えば、1か月分だけ、賃料の支払が遅れるなど)を理由に解除することはできないこととされています(信頼関係破壊理論)。どの程度の債務不履行があれば解除が可能になるのかは、ケースバイケースで一概には言えません。 ○ 詳しくは、弁護士等の専門家にご相談ください。 22ページ Q〔質問〕3. 借家に住んでいますが、災害で家屋に損傷が生じました。家主に修繕を依頼したが応じてもらえなかったので、やむなく自分で30万円をかけて修繕しました。修繕にかかった費用を支払ってもらいたく何度も家主に連絡しましたが、連絡が取れなかったため、家賃を毎月1万円減額して支払っていました。ところが、最近になり、家主から、約定どおりの家賃を支払っていないため出て行くようにといわれました。これまでどおり、減額した家賃の支払いのままでよいでしょうか。 A〔回答〕 念のため、約定どおりの家賃の支払いをしたほうがいいでしょう。その上で、家主と修繕費用についての話し合いをされることをおすすめします。 ○ 今回の家屋の損傷が家主が修繕すべきものである場合には、賃借人が代わりにした修繕の費用について、家主に請求できるものと思われます。 ○ もっとも、損傷が家主が修繕すべきものか否かや、修繕すべきものとしても修繕にかかる費用の額について、家主と取り決めをしないまま、一方的に減額した家賃を支払うと、結果的に家主が修繕すべきものではないとなった場合や適正な修繕費用がより低額である場合には、賃料の支払い義務の不履行となり、賃貸借契約を解除されてしまう危険性があります。 ○ 賃貸借契約上で修繕の特約を定めている場合もありえますので、とりあえず約定どおりの賃料の支払いをすることとして、弁護士等の専門家に相談されてみてはいかがでしょうか。 ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されますので、賃借人は、(1)賃借人が賃貸人(家主)に対して修繕が必要であることを通知し、または賃貸人がその事実を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは、(2)急迫の事情があるときには、自分で賃借物の修繕ができます。もっとも、賃貸人と取り決めをしないまま、一方的に修繕費用額を減額して家賃を支払うと、結果的に賃料の支払い義務の不履行となり、賃貸借契約を解除されてしまう危険性がありますので、改正前と同じく、注意が必要です。 Q〔質問〕4. 私が借りているアパートは、災害により、2階に昇る階段がいつ外れるかわからないような状態です。大家さんに修繕を求めたのですが、取り合ってもらえません。どうしたらよいでしょうか。 A〔回答〕 賃貸人(大家さん)は、法律上、賃貸借契約の目的物の修繕義務を負うこととされています。賃貸人が修繕をしない場合には、賃借人が工事費用を立替払いして修繕を行い、費用を支払うよう賃貸人に求めることが考えられます。災害救助法に基づき工事の費用の援助を受けられることもあります。 ○ 個別のケースで賃貸人が修繕義務を負うかどうかは、損傷の箇所、程度等にもより、賃貸借契約上の修繕義務に関する特約の有無によっても異なりますが、このケースでは、修繕義務を負う可能性が高いといえます。 ○ 賃貸人が修繕をしてくれない場合は、賃借人が費用を立て替えて、修繕を行い、賃貸人に対して、償還を請求できます。償還に応じてくれない場合は、賃料と相殺することもできます。 ○ 災害救助法の適用地域では、災害救助法に基づく応急修理制度により、修繕費用の支給を受けることも考えられます(法律上の上限は59万5000円ですが、上乗せ支援がある市町村もあります。市町村が工事業者と契約を結び、市町村から工事費用が支払われます。原則として災害発生から1か月以内に修理完了が必要です。)。 ○ 賃貸人がこの制度を利用しない場合は、賃借人が利用することもできます。損傷の程度や収入の要件を満たす必要がありますので、詳細については、市町村の窓口にお問い合わせください。 23ページ ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されますので、賃借人は、(1)賃借人が賃貸人に対して修繕が必要であることを通知し、または賃貸人がその事実を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは、(2)急迫の事情があるときには、自分で賃借物の修繕ができます。もっとも、賃貸人と取り決めをしないまま、一方的に修繕費用額を減額して家賃を支払うと、結果的に賃料の支払い義務の不履行となり、賃貸借契約を解除されてしまう危険性がありますので、改正前と同じく、注意が必要です。 Q〔質問〕5. 災害の影響で、大家さんから、賃貸借契約を解約したいと申入れがあり、これに応じて退去することになりました。仲介の不動産会社からは、「中途解約なので通常であれば引越費用は大家が負担するが、今回は、大家さんも災害で被害を受けているため、引越費用は負担してもらえない。」という話がありました。また、災害で被害を受けた建物の修繕費用も大家さんと折半で負担するよう求められ、修繕の業者が家に出入りした際に汚した部分のハウスクリーニング代まで負担するよう求められていますが、これらに応じなければならないのでしょうか。 A〔回答〕5. 賃貸人(大家さん)に引越代を負担する法的な義務を負わせるのは困難ですが、交渉の余地はあるかもしれません。原則として、災害による被害について賃借人が修繕費を負担する義務はありません。 ○ 中途解約について既に合意している場合には、賃貸借契約に「賃貸人側からの解約申入れにより合意解約する場合には、賃貸人が引越代を負担する。」という内容が含まれていなければ(契約書を確認しましょう)、賃貸人に対して、引越代を負担する法的な義務を負わせることは困難です。 ○ 仲介会社の話からすると、従前は、賃貸人が引越代を負担していたようですので、全額ないし一部の負担について、賃貸人と交渉する余地はあるかもしれませんが、あくまで話合いということになると思われます。 ○ 賃借人は、建物を明け渡す際に、「原状回復」して返す必要がありますが、これは、借りた時と同然の状態にして返さなければならないという意味ではなく、普通に生活して生じる程度の損耗や経年劣化であれば、そのままの状態で返還すればよいとされています。 ○ 賃借人の故意や不注意で壁や床などを壊したり傷つけたりした場合には、賃借人が修繕費用を負担する必要がありますが、災害による建物の損壊については、そのような場合にあたりませんので、賃借人が修繕費用を負担する必要はありません。 ○ 亀裂修理は、本来、賃貸人が修繕義務を負うべきものですから、その業者の出入りの際に発生した汚れについて、賃借人がクリーニングの費用を負担する義務はありません。 Q〔質問〕6. 今回の災害で賃借している部屋のコンセントが漏電するようになってしまいました。そこで、管理会社に修理をしてほしいと連絡したところ、修理費用を半分支払ってほしいといわれました。この場合、修理費を半分支払わなければいけないのでしょうか。 A〔回答〕 災害を原因とする漏電であれば、修理費用を支払う必要はありません。ただし、賃借人の使い方が悪いなど、賃借人に責任があるような場合には、費用を支払わなくてはならない可能性もあります。 ○ 賃貸借契約において、賃貸人は、賃貸しているものの使用および収益に必要な修繕をする義務を負っています。そのため、賃借人の責任によるものではなく、賃貸している物件の設備などが壊れた場合、賃貸人が自らの費用負担で修理をする必要があります。 ○ ただ、賃借人の使い方が悪いとか、簡単に倒れて床を傷つけそうな家財を設置するなど賃借人に故意・過失があるような場合には、賃借人が費用を支払わなくてはならない可能性もあります。 24ページ Q〔質問〕7. 一戸建てを賃借して住んでいました。災害後に解約して退去しましたが、原状回復費用に充てたと言われ敷金を返してもらえません。また、災害で、建物の壁にひびが入りましたが、逆に、その修繕費を請求されました。どうしたらよいでしょうか。 A〔回答〕 通常の生活を送るうえで発生した損耗については、敷金から修繕費用等が控除されることはないのが原則です。したがって、不注意や故意で壁や床などを傷つけたということがなければ、敷金の返還を求めることができます。また、災害による被害については、賃貸人が修繕すべきものですので、賃借人が負担する必要はありません。 ○ 賃借人は、建物を明け渡す際に原状回復して返す必要がありますが、これは、新築で借りた場合に新築同然の状態にして返さなければならないという意味ではなく、不注意や故意によって建物を損傷することなく普通に生活し、建物を使用していたならば、そのままの状態で返還すればよいとされています。 ○ 敷金から修繕費などが控除される場合があるのは、借家人の不注意や故意で壁や床などが損傷した場合です。 ○ 賃貸人は、賃貸物の修繕義務を負っています。賃貸借契約の特約で、賃借人が修繕を行うこととされている場合も多いのですが、一般的には、このような特約は、当事者が予測しうる程度の損傷を対象としていると考えるべきですので、災害による壁の損傷までは含まれないと思われます。 ○ よって、災害による壁の損傷の修繕費用を賃借人が負担する必要はありません。 Q〔質問〕8. 借家に住んでおり、2年契約で来月末が更新の予定でした。ところが、大家さんの自宅が災害で損壊してしまい住むところがなくなったため、私に借家を明け渡すよう求めています。退去しなければならないでしょうか。 A〔回答〕 必ず立ち退かなければならないわけではありません。 ○ 期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶等の通知がなければ、賃貸借契約は同一条件で更新されたものとみなされます。これを「法定更新」といいます。また、この通知があっても、期間満了後に賃借人が使用を継続し、賃貸人(大家さん)が遅滞なく異議を述べなかった場合も同様です。 ○ 法定更新があった後は、期間の定めがない賃貸借となります。この場合、賃貸人が解約の申入れをしてから6か月を経過することにより、契約が終了するとされていますが、その場合にも、賃貸人の側に解約についての「正当事由」が必要となります。なお、賃貸人自身がその建物を使用する必要性があることは、正当事由の有無の判断にあたっては、重要な要素として考慮されます。ほかに使える借家は持っていないか等も含めて、総合的に判断されます。 Q〔質問〕9. 住んでいる賃貸マンションの一部が、災害で壊れてしまいました(住めないという程ではありません)。大家さんに修繕を依頼したところ、逆に、賃貸マンションから立ち退くように要求されてしまいました。このような場合、賃貸借期間は残っていても、立ち退かなければいけないのでしょうか。また、立ち退く場合には、立退料は請求できますか。 A〔回答〕 賃貸借契約の期間内であれば、通常は、立ち退かなければいけないということはありません。ただし、建物の損傷がひどく、修繕の必要があるときは、一時的な退去をしなければならない場合もあります。また、損壊の程度等によっては、賃貸人(大家さん)から解約を申し入れて立ち退きが認められることもあります。この場合には、状況に応じて立退料を請求できる可能性があると思われます。 25ページ ○ 住める程度であれば、建物が「滅失」したとは言えませんので、賃貸借契約は継続します。賃貸借契約の期間内であれば、通常は、立ち退かなければいけないということはありません。 ○ 賃貸人には、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務があり、賃貸人が必要な修繕をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができないとされています。そのため、建物の状況からみて、修繕が必要でかつ退去が必要な場合は、一時的な退去をしなければなりません。 ○ ただし、建物の損傷がひどい場合には、賃貸人から解約を申し入れて、立ち退きが認められることもあります。この場合には、これまでの経過状況、建物の損壊の程度、建物の利用状況、立退料などを考慮して、正当と認められるものであること(正当事由があること)が必要となりますので、この一環として、立退料を請求できる可能性があると思われます。 ○ 建物の状況などによって結論が異なりますので、早めに弁護士等の専門家に相談するのがよいでしょう。 Q〔質問〕10. 建物が「滅失」した場合は、借家契約が終了すると聞いたのですが本当ですか。建物の「滅失」とは、どのような状態をいうのですか。 A〔回答〕 建物の滅失とは、損壊の程度がひどく、建物としての「効用を失った状態」をいいます。建物が滅失すれば、借家契約の目的物がなくなってしまうので、借家契約は終了します。なお、建物の一部の損壊であっても、修復に多額の費用(新築を上回る費用)がかかる場合は、滅失と判断される可能性があります。 ○ 建物の滅失の有無に関する明確な基準はありませんが、最高裁の判例では、損壊の程度に加えて、「風雨をしのげるか否か」「倒壊の危険の有無」「耐用年数から見て修復と新築のどちらが経済的か」などの事情を総合的に検討して判断しています。 Q〔質問〕11. 災害で賃借していた建物が壊れてしまい、このまま住める状態ではないため、賃貸借契約を解除して引っ越しをすることにしました。この場合、敷金を返還してもらうことはできるのでしょうか。さらに、大家さんに引っ越し費用を請求することはできるでしょうか。 A〔回答〕 賃借人の責任ではなく、災害により建物の一部が壊れてしまい、残りの建物の状況では居住の目的を果たせない場合には、賃借人は賃貸借契約を解除することができます。敷金は、家を明け渡すときまでに支払っていない未払賃料や、賃借人が誤って壁を傷つけたり、窓ガラスを壊したりしたときなどの修繕費用など、賃借人が負担する債務を差し引いて、残金を返還してもらうことができます。引っ越し費用を請求することは難しいでしょう。 ○ 賃借人の責任ではなく、災害により建物の一部が壊れてしまい、残りの建物の状況では居住の目的を果たせない場合には、建物を貸すという債務が履行不能となったといえますので、賃借人は賃貸借契約を解除することができます。 ○ 解除により賃貸借が終了して賃借人が大家さんに家を明け渡す時に、敷金から賃借人の債務額を差し引き、残額が賃借人に返還されます。 ○ 通常の使い方をして、年月の経過により、畳や建具が古くなった場合など、自然の劣化や通常の消耗については、敷金から差し引かれる債務には含まれません。 ○ 災害により建物が壊れたことについて、賃貸人(大家さん)の責任があるとはいえない場合が多いでしょうから、契約を解除して引っ越すとしても、一般的には引っ越し費用を賃貸人に対して請求することはできないでしょう。 26ページ ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されます。改正民法では、建物の全部が壊れるなどして、居住の目的を果たせなくなったときは、賃貸借契約は終了することが法律上明確にされました。また、建物の一部が壊れてしまい、残りの建物の状況では居住の目的を果たせない場合に、仮に、建物が壊れたことについて、賃借人に責任があるといえる場合でも、賃貸借契約の解除が認められることになりました。 Q〔質問〕12. 災害の影響で給与が減額され、家賃の支払が難しい状況になりました。家賃は1か月遅れの状況ではありますが払っています。先月、管理会社に事情を説明し、「滞納している分と併せて、今月2か月分支払う」という話をしましたが、実際には、1か月分しか払うことができませんでした。今日帰宅したら扉に管理会社からの封書があり、 「今月も家賃遅れますか。」という旨の内容でした。今後強制退去になることはあるのでしょうか。 A〔回答〕 強制退去をさせるためには裁判手続が必要なので、直ちに退去を求められる可能性は高くはありませんが、支払の遅れが続けば、今後、立ち退きを求められる可能性もあります。 ○ 災害の影響で給与が減額されたとしても、賃料の支払義務がなくなることはありません。 ○ 賃貸借契約は、信頼関係に基づく継続的な契約ですので、解除するためには、賃料不払等の債務不履行により、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたといえる場合でなければなりません。 ○ 一般的には、1か月分の賃料不払を理由に賃貸借契約が解除されることはあまりないといえますが、信頼関係が破壊されたといえるかどうかは、従前の経緯等を含め総合的に判断されるものですので、一概にはいえません。 ○ 今後、賃料滞納額が増えたり、滞納の期間が長期にわたったりするような場合は、賃貸借契約を解除され、立ち退きを求められる可能性も高くなるでしょう。 ○ なお、裁判手続によらないで建物の入口の鍵を変えるなどして強制撤去させること(これを自力救済といいます)は禁止されています。 ○ 詳しくは、弁護士等の専門家にご相談ください。 Q〔質問〕13. 災害時に、賃貸マンションの上の部屋のベランダに置かれていた物のせいで、排水がうまくいかず、階下の私の部屋まで水浸しになってしまいました。上の階の住人に損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。 A〔回答〕 水漏れが上の階の住人の責任によるといえるかどうかによって異なります。ベランダに置かれていた物の具体的な状況や事情によって、上の階の居住者に責任があるのかどうかの判断が異なってきます。 ○ 水漏れの原因が、排水口を不用意にふさぐなど上の階の居住者の責任による場合は、上の階の居住者に対して、損害賠償を請求することができます。 ○ しかし、水漏れが上の階の居住者の責任とはいえない場合、上の階の住人に対して、損害賠償請求をすることはできません。 ○ 物の置き方が悪くて水漏れしてしまったのか、通常であれば水漏れするような状況ではないのに、雨が通常予測できないくらいに多く降ってしまったのかなど、具体的な状況や事情によって判断が異なってきます。 27ページ ○ 上の階の住人が水漏れも補償するタイプの個人賠償責任保険や住宅総合保険をかけていれば、保険で損害を補償してもらえる可能性があります。 Q〔質問〕14. 災害で借地上の建物が全壊しました。賃貸人の承諾なく再築することは可能でしょうか。 A〔回答〕 原則として、賃貸人の承諾なく再築することができます。ただし、増改築禁止特約がある場合には、賃貸人の承諾なく再築すると賃貸借契約の解除原因となる可能性がありますので、できれば賃貸人の承諾もしくはこれにかわる裁判所の許可を得た方がよいでしょう。 ○ 借地上の建物が滅失しても、借地権は存続します。ただし、借地借家法施行(平成4年)前に設定された借地権であるかどうか、賃貸人の承諾があるか否かにより、借地権の存続期間に違いがあります。 ○ 増改築禁止などの特約がある場合、仮に賃貸人の承諾なく再築したとしても、賃貸人との信頼関係を破壊したといえないような特別の事情があれば、賃貸人から解除することはできません。ただし、その判断はケースバイケースですので、できれば賃貸人の承諾を得ておいた方がよいでしょう。 ○ もし、賃貸人が高額な承諾料を要求するなどして承諾のための協議が整わない場合は、裁判所に対し、賃貸人の承諾に代わる許可を申し立てることができます。その場合、裁判所は、当事者間の利益の衡平を図るために、借地条件の変更や財産上の給付(承諾料にかわるもの)を命ずることがあります。 Q〔質問〕15. 借りていた土地が災害による地割れで使用できなくなりました。地主にどのような請求ができますか。 A〔回答〕 地主は、賃貸借の目的物である土地を使用できる状態にする義務があるので、修繕を求めることができます。これは、地主に責任のない天災の場合でも同じです。ただし、経済的に修復が可能な場合に限られると解され、修復が著しく困難で賃貸人が修復を放棄したときは、契約を解除することになるでしょう。 ○ 賃貸借契約は、賃料の支払いと目的物の使用が対価関係に立ちます。したがって、賃借人は使用できる状態にするよう賃貸人(地主)に請求することができます。 ○ また、使用できない割合に応じ、賃料の減額の請求などの主張が可能な場合もあるでしょう。 ○ 経済的に修復が著しく困難で賃貸人が修復を放棄したときは、契約の条項や当事者の合意に基づいて契約を終了することや、使用できる状態にしないという賃貸人の債務不履行を理由に契約を解除することも考えられます。 ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されます。改正民法では、賃借人は、(1)賃借人が賃貸人(地主)に対して修繕が必要であることを通知し、または賃貸人がその事実を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは、(2)急迫の事情があるときには、自分で賃借物の修繕ができるとされます。また、土地の全部が使用できないような場合は、賃貸借契約は終了することが法律上明確にされています。 Q〔質問〕16. テナントビルを貸しているのですが、入居している飲食店から、「災害の影響で経営が苦しくなったため賃料の減額を求める」旨の通知が届きました。私としては納得できないのですが、賃料の減額に応じなければならないでしょうか。 28ページ A〔回答〕 減額に納得ができなければ、従来の賃料額(ないし「相当と認める額」)を請求することができます。当事者間で合意できない場合には、最終的に、裁判所において賃料を決定してもらうことができます。ただし、裁判所の決定額が従来の賃料額よりも低い場合には、それまでの間に受領しすぎた賃料については、受領時から年1割の利息を付けて返還しなければなりません。 ○ 賃料は契約の内容なので、本来は当事者の合意により定まります。しかし、一定の場合に、一方の当事者からの請求により変更することが認められます。 ○ 賃料相場との比較から、賃料が不相当になったのであれば、賃借人は賃料の減額請求をすることができます。 ○ 協議が調わない場合は、まず民事調停をしなくてはならず(調停前置主義)、調停で合意できない場合は裁判により決定します。 ○ 減額が確定するまでは、賃貸人としては相当と認める額の請求ができますが、減額が確定した際は、減額の請求を受けたときからの超過受領額及びこれに対する年1割の利息を返還しなくてはならないとされています。 Q〔質問〕17. 15年くらい前から同じ人に住宅を賃貸しています。賃借人から、「災害で階段が壊れたので、修理した」と言って20万円を請求されましたが、これを支払わなければなりませんか。 A〔回答〕 階段の修理代は原則として賃貸人が支払わなければなりません。ただし、本来数万円で済むはずの修繕工事に20万円をかけたような場合には、全額が賃貸人の負担すべき必要費にはあたらないと考えることができる場合もあると思われます。 ○ 賃貸人は、賃貸物の修繕義務を負っています。修繕義務が履行されない場合に、賃借人は、賃貸人に代わって修繕を行い、その費用を必要費(使用収益に適する状態に目的物を維持・保存するために必要な費用)として、賃貸人に請求することができ、賃貸人は、これを直ちに償還する義務があります。 ○ 賃貸借契約の特約で、賃借人が修繕を行うこととされている場合も多いですが、一般的には、このような特約は、当事者が予測しうる程度の損壊を対象としていると考えるべきですので、災害による建物の損壊までは含まれないと判断される可能性が高いと思われます。 Q〔質問〕18. 一戸建ての住宅を賃貸していますが、賃借人が家賃を滞納しがちで、建物が古くなっていたこともあり、災害をきっかけに、賃借人に対し、「建て替えもしたいので、この際新しいところに移ってはどうか」と促しました。賃借人は、「1か月後に出て行くが、滞納している家賃は支払わない。」と主張しています。そのようなことが許されるのでしょうか。 A〔回答〕 賃借人が一方的に滞納賃料の支払を拒絶することはできません。もっとも、賃貸人の申出に対し、賃借人が出て行くことを拒否した場合であって、賃貸人の側から滞納賃料の支払義務を免除することを条件に賃貸借契約を終了させたような場合には、賃借人は滞納賃料を支払う義務はなくなります。 ○ 賃貸借契約を合意により終了した場合には、滞納賃料について特段の合意のない限り、賃借人は滞納賃料の支払義務を免れません。 ○ 賃貸借契約を合意により終了させるにあたり、賃貸人が賃借人に対し滞納賃料について免除することを条件にすることも考えられますが、その場合は、当然、賃貸人は、賃借人に滞納賃料を請求することはできません。 ○ 賃貸人としては、十分な敷金・保証金等を預かっている場合には、それを滞納賃料に充てるのが通常ですが義務ではありません。 29ページ ○ なお、2020年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には、改正民法が適用されます。改正民法では、賃借人は賃貸人に対して、敷金を滞納賃料の支払に充てることを請求できないことが法律上明確にされています。 Q〔質問〕19. 災害で住むところがなくなった知人に、私が住むときには出て行くと口頭で約束の上、家を貸しました。契約期間は2年で、相場に見合う家賃ももらっています。その家に自分が住む必要が出てきましたので、知人に出て行ってほしいと言ったところ、知人は今後も住み続けたいと言っています。契約の更新を拒絶すれば、知人に出て行ってもらえるのでしょうか。 A〔回答〕 更新拒絶の通知をしたからといって、必ず立ち退かせることができるわけではありません。 ○ まず、自分が住むときには建物を明け渡すとの約束ですが、このような特約は、明渡時期が不確定となってしまい、かつ、専ら賃貸人の事情によるものであることなどから、無効と考えられます。そうすると、話し合いにより合意解約ができる場合は良いですが、できない場合には、更新拒絶ないし解約の申入れにより賃貸借契約を終了させることになります。 ○ 更新拒絶をする場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知をしなければなりませんし、「正当事由」が必要です。 ○ 賃貸人自身がその建物を使用する必要性があることは、「正当事由」の有無の判断にあたっては、重要な要素として考慮されます。自分が住むときには建物を明け渡すとの約束をしていたことも、事情として考慮される可能性はあります。ほかに使える借家は持っていないか等も含めて、総合的に判断されます。 ○ 更新拒絶の通知がなければ、賃貸借契約は同一条件で更新されたものとみなされます。これを「法定更新」といいます。また、この通知があっても、期間満了後に賃借人が使用を継続し、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合も同様です。 ○ 法定更新があった後は、期間の定めがない賃貸借となります。この場合、賃貸人が解約の申入れをしてから6か月を経過することにより、契約が終了するとされていますが、その場合にも、賃貸人の側に解約についての「正当事由」が必要となります。 Q〔質問〕20. 築40年の木造アパートを賃貸しているのですが、災害に耐えられるかどうか不安があります。今回の災害のようなものが起こり、住人に被害が出たような場合に、賃貸人はどのような責任を負うのか教えてもらえますか。また、もし、立退料を支払って、住人に出て行ってもらうことにした場合、立退料の相場はどのくらいでしょうか。 A〔回答〕  建物に瑕疵があった場合には、責任を負う可能性が高いといえます。立退料については、はっきりとした相場というのはありません。一般的には、引越代を含めて、賃料の6〜《から》12か月分ということが多いようですが、あくまで目安です。 ○ 建物の賃貸人が、建物の倒壊等によって賃借人に被害が発生した場合に責任を負う原因としては(1)賃貸借契約上の債務不履行、(2)土地の工作物の所有者としての不法行為責任(土地工作物責任)が考えられます。 ○ 賃貸借契約上の債務不履行については、賃貸人が責任を負うのは、故意または過失があった場合に限られます。例えば、点検やメンテナンスが不十分であったような場合には、過失があったと認められることが多いでしょう。 30ページ ○ 土地工作物責任を一次的に負うのは、工作物の占有者(賃借人)ですが、占有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは免責され、その場合には所有者が責任を負います。居住用の物件の場合、建物の構造的な部分について賃借人《ちんしゃくにん》に注意義務違反を問うのは難しいでしょう。 ○ 所有者の土地工作物責任は、債務不履行の場合と異なり、故意・過失がない場合も免責されません。また、所有者の責任ですので、建築時から所有していたか、建築後に取得したかは関係ありません。 ○ 土地工作物責任は、建物の設置または保存に瑕疵があることが要件であり、瑕疵とは、その物が通常備えるべき品質や性能を欠くことをいいます。どのような場合に瑕疵があるといえるかは、ケースバイケースで、難しい問題ですが、建築時の建築基準法令に適合していたかどうかは「設置の瑕疵」についての一つの目安になるでしょう(ただし、目安に過ぎず、最終的には実質的な安全性を備えていたかが問題となります。)。 ○ 例えば、地震で建物が倒壊した場合、メンテナンス不足等のせいなのか、建物の瑕疵のせいなのか、不可抗力なのかが問題となります。どの程度の揺れの地震だったのか、付近の建物の状況はどうか(付近の建物はほぼ無傷なのに、一軒だけ倒壊しているような場合には、少なくとも建物に瑕疵があったとされることが多いでしょう。)などを総合的に判断します。 ○ 一定の立退料を支払えば、必ず賃借人に退去してもらえるというものではありません。立退料の提示は、老朽化による建てかえの必要性とともに、更新拒絶や解約申入れをするための正当事由が存在するかどうかの判断の一要素となります。 Q〔質問〕21. 所有するマンションを賃貸しています。管理組合から災害に伴う修繕費用の請求書が届きました。私はそのような修繕をすることに同意はしていなかったのですが、払わなければならないのでしょうか。 A〔回答〕 支払わなければならない可能性がありますが、まずは、管理会社などに問い合わせをしたほうが良いでしょう。 ○ マンションの「共用部分」が災害により損傷した場合、その損傷の程度が軽度であれば、マンション管理組合の集会(総会)の普通決議によって、修繕することができます。 ○ そして、修繕の費用は、全ての区分所有者が、原則として、専有部分の床面積の割合により定まる共用部分の割合に応じて負担することになります。 ○ なお、各区分所有者の「専有部分」については、自己の責任と費用で修理するのが原則です。 31ページ 6. 登記・登録関係 Q〔質問〕1. 抵当権を設定していた建物が災害で損壊してしまい、跡形もありません。抵当権の被担保債権となっている借金の支払をする必要もなくなったのでしょうか。 A〔回答〕 借金の支払義務は残っています。 ○ 抵当権を設定していた不動産がなくなっても、保険金などその不動産の価値が変形したと同視できるものがある場合は、その保険金請求権が債権の回収に充てられることもあり得ます。 ○ 抵当権が設定されていた建物がなくなったこと(滅失)により、抵当権は消滅します。しかし、抵当権が消滅しても抵当権により担保されていた債権は、無担保の債権として依然として存在していますので、支払義務はあります。 Q〔質問〕2. 災害で土地・建物の権利証を紛失しました。不動産(土地・建物)の所有権等を失うことになるのでしょうか。 A〔回答〕 権利証を紛失したからといって、所有権等の権利を失うことはありません。また、不動産の売買等の処分をすることができなくなるわけでもありません。 ○ なお、一般的に「権利証」と呼ばれているものは、「登記済証」又は「登記識別情報」であり、紛失しても再発行を受けることはできません。 ○ また、紛失した権利証を悪用された結果、不動産の権利を失うことになる場合もありますので、登記所(法務局や地方法務局)に紛失した旨を届け出る、登記識別情報を失効させる、などの対応をするとよいでしょう。 Q〔質問〕3. 住宅ローンを組んで住宅を購入し、土地と建物にそのローンの抵当権が設定されています。災害で建物がかなり傷み、修繕するにも多額の費用を要するので、取り壊したいと考えています。住宅ローンの債権者に無断で取り壊して問題はないですか。 A〔回答〕 取壊しに際して、事前に抵当権者(住宅ローンの債権者)に、同意を得ておくべきでしょう。 ○ 抵当権が設定されている家を取り壊すと、担保物件の消滅により担保権(抵当権)は消滅します。しかし、被担保債権(住宅ローン)は消滅しませんので、担保物件が消滅してしまうと無担保の債権となってしまいます。 ○ 無担保の債権者となると、債務者の財産から他の債権者と債権額に応じ同じ割合によってしか、債権の回収ができないことになるので、債権を回収できる可能性が著しく減少することにつながります。 ○ したがって、抵当権者としては、換価できる担保物件がなくなってしまうことには大きな利害を有しており、また、担保権設定者(担保物件の所有者)は、担保物件の価値を保存・維持する義務があります。この義務は、抵当権設定契約の際に規定されていることが多いでしょう。担保物件が無くなった場合には、残額一括返済や追加担保の差し入れなどが規定されていることもあります。 ○ 未だ換価できる価値があるといえる場合に、担保物件である建物を取り壊してしまうと、抵当権者を害するおそれがあるために、事前に建物の状況を抵当権者に伝えたうえで、取り壊すことに了承を得ておくことが望ましいでしょう。 Q〔質問〕4. 所有していた自動車が災害で土砂をかぶり使用できなくなりました。自動車の登録抹消は必要でしょうか。 32ページ A〔回答〕 既に使用することができなくなった自動車でも登録が残っている場合には、自動車税(軽自動車税)、自動車重量税などの課税がなされることがあり得ますので、登録の抹消手続をしておきましょう。手続を行う場所は、自動車の場合は運輸支局、軽自動車の場合は軽自動車検査協会となります。仮に登録抹消後も納税通知書が送付されてくるようであれば、自動車については都道府県庁、軽自動車税については市町村にお問い合わせください。 ○ 自動車の抹消登録には、「永久抹消登録」と「一時抹消登録」があります。「永久抹消登録」は、自動車を以後もう使用しない場合の廃車手続きであり、「一時抹消登録」は、自動車の使用を一時的に停止する場合に行われます。 ○ 軽自動車の場合には、「一時抹消登録」に該当するものとして「自動車検査証《けんさしょう》返納届」、「永久抹消登録」に該当するものとして、一時使用停止した後に完全に廃車する場合の「解体届出」、一度に完全に廃車してしまう場合の「解体返納」があります。 ○ 手続を行う場所は、自動車の場合は運輸支局、軽自動車の場合は軽自動車検査協会となります。 ○ 一時使用停止、完全な廃車のいずれかの手続を行い、税金についても手続をしておくと、翌年度から自動車税・軽自動車税を課税されることを止めることができます。自動車税は翌年度までの残存期間につき月単位で還付を受けることができますが、軽自動車税は、年額の納付のため還付を受けることができません。 ○ 完全に廃車の手続きをすると、車検残存期間(1か月以上あることが要件)につき、自動車も軽自動車も還付申請をすることで、自動車重量税の還付を受けることができます。 ○ 自動車の行方がわからない場合又は被災自動車を市町村等が保管している場合で自動車の状況から以後使用ができない場合には、所有者が、運輸支局で永久抹消登録の手続を行います。市町村等で保管している場合で、一定期間所有者が抹消登録を行わない場合には、職権で抹消が行われます。この手続に関しては、軽自動車も同様であり、手続を行う場所が軽自動車検査協会になります。 33ページ 7. 親族・相続関係 Q〔質問〕1. 妻とはかなり以前から別居していました。別居後しばらくして離婚裁判を起こし、その裁判中に災害が発生して、建物は倒壊してしまいました。土地の価値も下落してしまいました。それでも別居当時の財産価値を前提に、財産分与をしなければならないのでしょうか。 A〔回答〕 必ず別居当時の財産価値を前提に財産分与がされるとは限りません。 ○ 財産分与をいつの時点での財産を基準とするかについては、別居の時点を基準にする考え方と別居から期間が経過している裁判時(裁判の審理終結時)の財産を基準にする考え方があります。 ○ もっとも、民法上、財産分与の額等は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他「一切の事情を考慮して」決めることとされていますので、別居の時点を基準とする考え方であっても、別居後の事情を考慮する場合もありえます。 ○ 本件でも、別居後に、災害による不動産の消失や価値の下落という特殊な事情が生じていますので、そのような事情を考慮に入れた上での、財産分与がなされる可能性があります。 Q〔質問〕2. 妻とは長期間別居しています。数年前に妻に生活費として300万円を渡しました。災害で車が壊れてしまい、現在は年金暮らしのため、車の購入がままなりません。妻は現在も働いており、お金はあるはずなので、渡した300万円を返して欲しいです。 A〔回答〕 返還請求は認められないでしょう。 ○ 渡した300万円は、婚姻費用の支払ないし贈与と考えられます。 ○ 婚姻費用の支払いであれば、返還は請求できません。 ○ 贈与であっても、すでに現実に渡している以上、取消はできません。 ○ なお、夫婦間の契約の場合、婚姻期間中はいつでも取り消せるという夫婦契約取消権(民法754条)が規定されていますが、最高裁の判例で、婚姻関係が破綻した後は、取り消すことはできないとの見解が示されています。 Q〔質問〕3. 災害により父親が死亡しました。父は多額の負債があったので相続放棄をしたいのですが、相続放棄をした場合、弔慰金、義援金(義捐金)、死亡保険金などを受け取ることはできるのでしょうか。 A〔回答〕 弔慰金、義援金(義捐金)は亡くなられた方(被相続人)の親族(遺族)に直接支払われるもので、相続財産ではありません。したがって、相続放棄をした相続人でも、これらの金員を受け取ることができます。 ○ 弔慰金(災害弔慰金)とは「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づいて市町村から災害で亡くなられた方の親族等に支払われるものです。 ○ 義援金とは災害による被害を受けた方の支援として支払われるものです。 〇 死亡保険金は、保険金受取人に支払われるものであり、受取人の固有財産として扱われます(ただし、保険金受取人が指定されていない場合など、死亡保険金が相続財産として扱われることがあります。また、相続税の計算においては、死亡保険金は相続によって取得したものとみなされます。詳しくは、弁護士、税理士などにご相談ください。)。 ○ いずれも、被相続人の相続財産ではなく、親族(遺族)に直接支払われるものですから、相続放棄をしても受け取ることは可能です。 34ページ Q〔質問〕4. 災害の発生当時、災害の対象地域に住んでいた方が相続人となる場合は、相続放棄や限定承認をできる期間が延長されると聞きました。 A〔回答〕 相続人が相続放棄や、限定承認をできるのは、原則として、相続があったことを知った時から3か月間です(この期間を熟慮期間といいます)が、災害の発生当時、災害救助法の適用対象地域に住所を有していた方が相続人となる場合は、熟慮期間が令和6年9月30日まで延長されます。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 ○ この措置の対象となる方は、災害が発生した令和6年1月1日に、災害救助法が適用された地域にお住まいであった相続人の方です。 ○ 相続人が未成年者や成年被後見人である場合は、それらの方々の法定代理人について判断されますので、法定代理人が災害の発生当時、対象地域にお住まいであれば、熟慮期間は延長されます。 ○ 被相続人(亡くなった方)が対象地域にお住まいであったかどうか、相続の対象となる財産が対象地域にあるかどうか、といった事情は問題となりません。例えば、相続の対象となる財産が対象地域以外にあるとしても、相続人が災害の発生当時、適用対象地域にお住まいであれば、熟慮期間は延長されます。 ○ 相続人が複数いる場合は、災害の発生当時、対象地域にお住まいの方についてのみ、熟慮期間が延長されます。相続人全員について延長されるものではありません。 35ページ 8. 契約関係 Q〔質問〕1. 災害がおこる直前に、新築住宅の売買契約をし、手付金を払いました。ところが、住宅そのものには災害の影響はなかったのですが、周辺の地域は土砂の流出等が起きており、安心して住む気になれません。解約することはできるでしょうか。その際、手付金は返してもらえますか。 A〔回答〕 原則的には、手付金を放棄して解約することになるでしょう。手付金を返還してもらうためには、売主側に契約違反といえるような事情が必要です。 ○ 土地や家屋など不動産の売買契約を解除する手段としては、一般に次の方法が考えられます。 (1)債務不履行の場合など法律の規定に基づいた解除 例えば、代金を支払ったのに、相手方が土地・家屋の引渡しや登記をしないというような場合が考えられます。この場合、相当な期間を定めて引渡し・登記の催告をした上で、契約を解除することができます。 (2)手付放棄による解除 手付金を支払っている場合には、相手方が土地・家屋の引渡しや登記をするまでの間であれば、手付金を放棄することによって、いつでも契約を解除することができます。 (3)合意による解除 相手方と交渉を行い、合意による解除をすることも可能です。 ○ 手付金を返還してもらうためには、売主側の落ち度などを理由として、(1)の方法で解除することが必要と考えられます。 ○ 今回の場合ですと、土砂の流出等が起こることが十分予測できたのにきちんと説明していない、などの事情があれば、債務不履行による解除という法律の規定に基づいた解除ができる可能性がありますので、それにより、手付金の返還が認められるかどうかが変わると思われます。 ○ 法律の規定に基づく解除ができない場合でも、売主と話し合いをして、売主と買主が納得し、手付金を返還して売買契約を解除するという内容で合意できれば、手付金を返還してもらえます。 ○ 詳しくは、弁護士等の法律専門家に相談するのがよいでしょう。 Q〔質問〕2. 自宅を新築中でしたが、災害のために工期が予定よりも延びてしまうとのことでした。自宅への引っ越しが予定より遅れる分、現在借りている家の賃料を余計に払わなければならなりません。このような場合、建築業者に損害金を請求することはできるでしょうか。 A〔回答〕 請負契約書の内容を確認してください。天災等、注文者、請負人(建築業者)いずれの責めにも帰することができない工事遅延についての約定があれば、基本的にその約定にしたがいます。一般的には、工期の遅れが請負人の責めに帰すべきものかどうかで、損害金の請求ができるかどうかが異なります。 ○ 契約内容にもよりますが、真に災害の影響によるやむを得ない工事遅延の場合は、遅延損害金を請求することは難しいでしょう。 ○ 標準的な工事請負約款では、不可抗力により工期内の完成ができない場合は、請負人側から工期延長を請求できるとされています。 ○ 反対に、災害によるやむを得ないものとはいえない工事遅延(災害の影響とは無関係な遅延など)の場合は、損害金の請求が可能と思われます。 ○ 詳しくは、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 36ページ Q〔質問〕3. 自宅の屋根に設置していたソーラーシステム(太陽光発電装置)が災害で壊れてしまいました。まだローン(クレジット)が残っていますが支払義務はあるのでしょうか。 A〔回答〕 通常は支払を拒むことはできませんが、現状を説明し、ローンの減免や返済条件等につきローン会社と協議をしてみてはいかがでしょうか。 ○ ローン債務やクレジット債務は、災害で物が消滅した場合でも、残存するのが原則です。したがって、支払義務は残っていることになります。 Q〔質問〕4. 今回の災害で、リース契約していたコピー機が壊れてしまいました。この場合でも、リース料金を払わなければならないのでしょうか。 A〔回答〕 リース契約では、一般的に、天災などでリース物件が壊れたり、なくなったりした場合でもリース料金を支払わなくてはならないという契約条項が入っています。まず、契約内容を確認しましょう。このような条項があった場合、契約上は、リース料を支払わなければならないことになります。リース料金の支払の猶予や契約期間の延長などを考慮してもらえないかなど、リース会社と相談をしてみるとよいでしょう。 ○ リース契約では、ほとんどの場合、「天災などによる不可抗力によってリース物件が滅失した場合、ユーザーにリース料金の支払を免れない。」、「リース契約で定められた規定損害金を即時に一括して支払う。」旨が記載されています。 ○ 不動産などの賃貸借契約では、貸主がこのような損害負担を負いますが、リース契約では借主が負担することとなっています。 ○ リース契約において、借主がこのような負担を負うことについて、リース契約が金融(お金を融資すること)に近い性質もあることから、有効とされています。 ○ 通常、リース物件にはリース会社によって動産総合保険がかけられており、災害による損害は保険によりカバーされる可能性があります。保険会社に確認なさることをお勧めいたします。 Q〔質問〕5. 災害に便乗した悪徳商法に気づかず、契約を結んでしまいました。代金を支払わなければならないでしょうか。また、契約は取りやめられますか。 A〔回答〕 代金を支払う必要はないものと思われます。配達証明付きの内容証明郵便で、クーリングオフによる解除、契約取消しの意思表示をして下さい。 ○ クーリングオフとは、一定の期間内であれば、訪問販売等で商品やサービスを購入した消費者が、一方的に契約をキャンセル(申込みの撤回、解約)することができる制度です。 ○ クーリングオフの対象とならなくても、詐欺を理由とする取消や、消費者契約法にもとづく取消ができる場合があります。 ○ また、すでに代金を支払っている場合でも、上記クーリングオフ、契約の取消しなどができ得るので、このことを理由に、支払った代金の返還を請求することができると思われます。 ○ 被害にあってしまった場合、まだ代金を払っていないが不審に思われる場合は、消費生活センターや弁護士等の専門家にご相談するとよいでしょう。 37ページ 9. 労働関係 Q〔質問〕1. 災害を理由に自宅待機(一時休業、一時帰休)を命じられました。従わなければならないでしょうか。 A〔回答〕 自宅待機(一時休業、一時帰休)がやむを得ないものであるならば、従わなければなりません。 ○ 災害によって事業所自体が損壊して操業停止になった、停電や断水などのために操業停止になったなど、やむを得ない事情があり、不可抗力といえる場合には、労働者は賃金も休業手当も請求できません。 ○ 事業所自体は損壊していないが、取引先から原材料や部品を入手できないために操業停止になった場合や、製品の配送が困難なために操業停止になった場合などは、賃金は請求できなくても、労働基準法が定める休業手当を請求できる可能性があります。 ○ 休業手当の額は、平均賃金の60%以上とされています。もっとも、最低限の60%では生活に困窮する労働者がほとんどであるため、事業主には60%を超えて支払うことが期待されています。 ○ なお、自宅待機等であっても、勤務先から命令があればいつでも出勤しなければならないという場合は、勤務しているものとして扱われますので、労働者は賃金を請求することができます。 ○ 労働者を自宅待機等させる事業主に対しては、休業手当の一部を補てんするために雇用調整助成金が支給される場合もあります。 ○ 詳しくは、総合労働相談コーナー、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕2. 未払賃金立替払制度とは、どのような制度ですか。 A〔回答〕 未払賃金の立替払制度とは、企業が倒産したことにともない、賃金が未払いのまま退職された労働者の方に、国が企業に代わって未払賃金(退職金を含む)の一部を立替払いする制度です。 ○ 立替払の対象となる未払賃金は、労働者が退職した日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金(給料)と退職手当(退職金)のうち、未払となっているものです。賞与(ボーナス)は対象となりません。また、未払賃金の総額が2万円未満の場合も対象とはなりません。 ○ 立替払をする額は、未払賃金の額の8割です。 ○ 国籍、労働形態(正規雇用・非正規雇用)は、問いません。 ○ 詳しくは、最寄りの労働基準監督署にお問い合わせください。 Q〔質問〕3. 被災したことを理由に、賃金を引き下げられてしまいましたが、仕方ないのでしょうか。 A〔回答〕 適法な変更ルールに従わない限り、被災したからといって、一方的に賃金を引き下げることはできません。 ○ 労働者と使用者の個別の合意があれば賃金の引き下げもできますが、労働者の個別の合意がない場合に、使用者が賃金の引き下げを行うには、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合との交渉の状況等に照らして合理的であることなどの一定の条件を充たす必要があります。 ○ したがって、使用者が、一方的に賃金を引き下げることはできません。 ○ なお、すでに賃金の支払いが遅れている場合、使用者は遅れた分の遅延損害金(年6%)を加算して支払わなければなりません。 38ページ ○ 詳しくは、総合労働相談コーナー、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕4. 勤務先に向かう途中に被災し、けがをしました。会社からは、労災保険を支払っていないので、労災申請はできないと言われましたが、仕方ないのでしょうか。 A〔回答〕 労災保険に加入していない事業場で発生した労災であっても、労働基準監督署へ労災保険の給付請求をすることができます。そして、労災と認定されれば保険給付を受けることができます。 ○ 労働者を1人でも雇っている事業主は、原則として労災保険の適用事業主となります。この場合、事業主は労働者を雇い入れた日から10日以内に所定の保険関係成立届を労働基準監督署等に提出することにより、労災保険の加入手続を行わなければなりません。 ○ 事業主がこの加入手続を怠っていた期間中に事故が発生した場合であっても、労働者やその遺族には労災保険が給付されますが、その一方で、事業主からは、給付された労災保険の金額の全部又は一部が費用徴収されることになります。 ○ 通勤途中にけがをした場合は、特別な事情がない限り、通勤災害と認定されます。 ○ 詳しくは、労働基準監督署、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕5. 今回の災害の影響により会社の業績が悪化したという理由で、解雇(雇止め)されました。 A〔回答〕 災害を理由とする、無条件の解雇や雇止めは認められません。 ○ 解雇については、法律で個別に解雇が禁止されている事由(労働基準法第19条など)以外の場合は、労働契約法の規定や裁判例における以下のようなルールに従って適切に対応する必要があります。災害時といっても例外ではありません。 ○ 整理解雇(経営上の理由から余剰人員削減のためになされる解雇)が有効と認められるかどうかは、(1)人員削減の必要性の有無、(2)解雇回避の努力義務を尽くしたか、(3)被解雇者の選定基準の合理性、(4)解雇手続の妥当性(説明、協議など)、の4つの事項を考慮して判断されます。 ○ 雇用期間の定めのある労働者(有期労働契約者)についても、解雇に際しては、上記の4つの事項が考慮されます。のみならず、有期労働契約については、労働契約法で「使用者は、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と定められており、雇用期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の場合に比べて、解雇はより厳格に判断されます。 ○ 雇止め(有期労働契約の更新を使用者が拒むこと)についても、無条件に認められるものではありません。例えば、それまで有期労働契約が反復して更新されており、今回更新をしないことが、無期労働契約者に対する解雇と社会通念上同視できる場合などは、労働者からの更新の申込みを使用者が拒絶することは、厳しく制限されます。 ○ 詳しくは、総合労働相談コーナー、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕6. 災害の発生後、しばらく勤務先と連絡が取れない状態でしたが、昨日になって突然、解雇されました。解雇は仕方ないのでしょうか。 A〔回答〕 災害発生後の混乱のなかで、業務に就けなかったり連絡が取れなかったりした場合に、労働者を解雇することは、一般的には、無効となる可能性が高いといえます。 ○ 解雇については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当と認められない場合には、無効となります。 39ページ ○ したがって、災害発生後の混乱のなかで、やむを得ず業務に就けなかった場合や、連絡が取れなかった場合に労働者を解雇することは、一般的には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇は無効と判断されることが多いでしょう。 ○ 詳しくは、総合労働相談コーナー、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕7. 派遣先が被災し、派遣先での業務ができなくなったことや、派遣先と派遣元の労働者派遣契約が中途解約されたことにより、派遣元が派遣労働者を即時解雇することは許されるのでしょうか。 A〔回答〕 そのような事情だけで、派遣元が派遣労働者を即時解雇することは許されません。 ○ 「派遣元と派遣先との間の労働者派遣契約」と「派遣元と派遣労働者との間の労働契約」は別のものです。 ○ 派遣元と派遣労働者との間の労働契約は、契約期間の定めのない労働契約(無期労働契約)と、契約期間の定めのある労働契約(有期労働契約)があります。 ○ 無期労働契約の場合、客観的で合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合でなければ、解雇することはできません(労働契約法16条)。 ○ 派遣においては、有期労働契約の場合が多いと思われますが、有期労働契約の解雇についても、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」とされています(労働契約法第17条1項)。そして、解雇にあたり「やむを得ない事由がある場合」に該当するかどうかについては、厳格に考えなければならないとされています。 ○ したがって、派遣先での業務ができなくなったり、派遣先との間の労働者派遣契約が中途解除されたりした場合でも、そのことが直ちに「やむを得ない事由がある場合」に該当するものではありません。 ○ 詳しくは、総合労働相談コーナー、弁護士等の専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕8. 災害前から給与の未払があったのですが、災害が起きたためそのままにしていました。これからでも請求できるでしょうか。 A〔回答〕 請求は可能です。 ○ 給与(賃金)の請求権も消滅時効にかかります。2020年4月1日以降に支払われる賃金については3年が時効期間です。それ以前に支払われる賃金は2年が時効期間です。支払期日から起算して、時効期間が経過した賃金は消滅時効の対象となります。 ○ なお、消滅時効期間が経過した場合でも、当然に請求権が消滅するわけではありませんので、請求することは可能です。とはいえ、早急に対応するべきですので、具体的な請求方法などについて、弁護士等の専門家にご相談ください。 40ページ 10. 損害賠償関係 Q〔質問〕1. 災害で自宅の塀が倒壊して、隣家の車を傷つけてしまいました。私に責任がありますか。 A〔回答〕 個々の事情によって、生じた損害(車の修理費など)を賠償する責任を負うかどうか、判断が異なります。 ○ 塀は土地の工作物として、工作物責任(民法717条)という民法上の特別の責任の対象となります。 ○ 工作物責任とは、土地の工作物(塀、屋根瓦、看板など土地上に人工的に設置された物)が壊れて他人や物を傷つけた場合に、その工作物の「設置または保存」に瑕疵(=通常備えるべき安全性を欠くこと)がある場合には、持ち主(所有者)やそれを管理していた人(占有者)に損害賠償責任が発生するという、法律上の特別な責任です。この責任に関しては、特に災害が起きた場合に責任が免除されるといった規定はありません。 ○ 瑕疵の有無の判断は、所有者や占有者の故意・過失に関わらず、客観的に判断されます。工作物に瑕疵があり、自然災害が発生した際に、その瑕疵によって損害が発生または拡大したといえる場合には、所有者や占有者は、その損害について責任を負うこととなります。 ○ ただし、仮に瑕疵があったとしても、通常の予想を超えるような大災害の場合には、不可抗力であるとして、責任が否定される余地もあります。 ○ また、損害の発生について、他の事情も原因として考えられる場合には、瑕疵と損害発生の結果との間に因果関係が認められないとして、責任が否定される場合もありえます。 ○ 災害時に発生した損害について責任を負うかどうかは、個別の事情によって異なります。詳しくは、弁護士などの専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕2. 災害の影響で、自宅の隣地にある擁壁が一部壊れています。今後、さらなる災害等により、擁壁がさらに崩れて自宅を壊した場合、隣地所有者に損害賠償請求ができるのでしょうか。 A〔回答〕 損害賠償請求ができる可能性があります。 ○ 仮に本件のようなケースではなく、今回の災害により擁壁が崩れて家屋を壊した場合には、当該場所での災害の程度等により、隣地所有者に故意・過失がないとして、不法行為責任を問えないことが考えられます。 ○ しかし、今回の災害で擁壁が一部壊れ、さらなる災害が起きれば崩れてしまうような危険な状況で、それを隣地所有者が認識しているような場合であれば、今後実際に災害が発生し、擁壁が崩れ家屋が壊れた場合には、隣地所有者は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと考えられます。 ○ まずは、隣地所有者に危険を知らせて、補修工事をお願いしてはいかがでしょうか。 Q〔質問〕3. 災害で家が半壊となり、修理をお願いすることにしました。修理の間、大工さんに合い鍵を渡していたのですが、大工さんは家の鍵を掛けないまま帰っていたため、家に空き巣が入り、高価品が盗まれてしまいました。大工さんに何か言えないでしょうか。 A〔回答〕 大工さんに損害賠償請求ができる場合がありえます。 ○ 本件の場合、大工さんに対して、不法行為責任ないし債務不履行責任に基づき、損害賠償請求ができる場合がありえます。 ○ 空き巣がどこからどのように入ったのかなどの当時のいろいろな事情により結論が異なり得ますし、立証の面でも簡単ではないと思われますので、弁護士や司法書士等の専門家に相談してください。 41ページ Q〔質問〕4. 災害により私が所有している山の一部が崩れ、他家所有の水路をふさいでしまいました。損害賠償責任を負うのでしょうか。 A〔回答〕 事案にもよりますが、賠償責任が発生しない可能性が高いと思われます。 ○ 不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)が発生するか問題になりますが、災害により山が崩れたような場合には、故意・過失がないものとして、損害賠償責任は発生しないものと思われます。 ○ もっとも、例えば、災害前から崩れる可能性を指摘されていたにもかかわらず、それを放置していたような場合などでは、損害賠償責任が発生する可能性もありえるなど、事情によって異なりますので、一度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。 42ページ 11. 税金関係 Q〔質問〕1. 私は、サラリーマン(または年金受給者)なのですが、災害による被害を受けた場合、支給される給与(または年金)について、源泉徴収の猶予や源泉所得税の還付を受けられますか。 A〔回答〕 災害で住宅や家財道具などに損害が生じた場合に、損害金額と所得金額に応じて、源泉所得税額の全部または一部について徴収猶予や還付を受けることができます。 ○ サラリーマンや公的年金受給者が、災害により、住宅や家財など(生計を一つにする扶養親族が所有する場合も含みます。)について受けた損害金額が、住宅または家財の価額の2分の1以上で、かつ、その年分の合計所得金額の見積額が1000万円以下である場合は、所得金額の見積額に応じて、源泉所得税及び復興特別所得税の全部または一部について徴収猶予や還付を受けることができます。 ○ 災害による住宅や家財の損害金額が、住宅または家財の価額の2分の1未満、または、その年分の合計所得金額の見積額が1000万円を超える場合にも、災害による損害金額について雑損控除の適用が受けられると認められるときは、徴収猶予限度額に達するまでの金額について、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予を受けることができます。 ○ これらの制度の適用を受けるためには、給与や年金の支払者(勤務先、年金事務所等)を経由して(還付を受けようとする場合は直接)被災された方の納税地の所轄税務署長に申請を行う必要があります。 ○ サラリーマンが、これらの制度の適用を受けた場合は、年末調整がされないので、確定申告により所得税及び復興特別所得税を精算する必要があります。 ○ 詳しくは、税務署、あるいは税理士などの専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕1. 私は個人で事業を行っているのですが、災害により、事業用資産が損害を受けました。この場合の所得税の取扱いはどうなりますか。 A〔回答〕 損害金額を必要経費として所得金額から減算することができます。 ○ 災害によって事業用の資産が損害を受けた場合は(滅失した場合だけでなく、減価があった場合も含みます。)、事業所得の計算上、その損害金額の全額が必要経費となり、所得金額から減算することができます。 ○ 詳しくは、税務署、あるいは税理士などの専門家にご相談なさってください。 Q〔質問〕3. 私は、被災して、勤務先から災害見舞金をもらいました。災害見舞金について所得税は課税されるのでしょうか。また、勤務先から、生活の資金として、無利息で貸付を受けていますが、税金が発生することはありませんか。 A〔回答〕 通常は課税されません。 ○ 個人が支払を受ける災害見舞金で、その金額が、受贈者(災害見舞金をもらった人)の社会的地位、贈与者(勤務先)との関係に照らして社会通念上相当と認められる場合は、所得税は課税されません。 ○ また、災害により臨時に多額の生活資金が必要となった使用人(従業員)が、使用者(勤務先)から生活資金に充てるために低利又は無利息で貸付を受けた場合も、合理的と認められる金額や返済期間であれば、通常の利息相当額との差額について給与として課税しなくてよいとされています。 ○ 詳しくは、税務署、あるいは税理士などの専門家にご相談なさってください。 43ページ Q〔質問〕5. 災害で自宅や家財道具に損害が発生しました。所得税の減免はありますか。 A〔回答〕 災害で住宅や家財道具などに損害が生じた場合に、所得税の軽減や免除を受ける方法として、所得税法に定める雑損控除の方法と、災害減免法(災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律)に定める所得税の軽減免除の方法があり、どちらか有利な方を選ぶことにとなります。 ○ 災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、雑損控除として一定の金額の所得控除を受けることができます。 ○ 災害によって受けた住宅や家財の損害金額(保険により補てんされる金額を除く)が、その時価の2分の1以上で、かつ、災害にあった年の所得金額の合計額が1000万円以下のときにおいて、その災害による損失額について、雑損控除を受けない場合は、災害減免法により、所得金額の合計額に応じて、所得税が軽減または免除されます。 ○ 詳しくは、税務署、あるいは税理士などの専門家にご相談なさってください。 44ページ 12. 保険関係 Q〔質問〕1. 生命保険金を請求したいのですが、災害で自宅が倒壊し、必要な資料が準備できそうにありません。どういう資料を準備すればよいのでしょうか。 A〔回答〕 保険金の請求には、保険証券、死亡保険金請求書、保険金受取人の戸籍謄本(抄本)、保険金受取人の印鑑証明書、被保険者の住民票、死亡診断書(死体検案書)等が必要となりますが、各保険会社は、被災地域にお住まいの方には、すべての書類が整っていなくても請求に応じるなど、柔軟な対応をしているようです。 詳しくは、契約している生命保険会社にお問い合わせなさってください。 ○ 詳細がご不明であれば、生命保険協会「災害地域生保契約照会センター」 フリーダイヤル 0120-001731 (受付時間は月曜日から金曜日(祝日を除く)、9時から17時まで)にお問い合わせなさってください。 Q〔質問〕2. 今回の災害で保険証券が無くなってしまいました。どのようにして保険金請求をすればよいのでしょうか。 A〔回答〕 自然災害により、保険証券を失った場合でも、本人確認ができれば、保険金の請求手続をとることができる場合があります。 ○ 通常、保険証券を喪失した場合、保険証券を再発行するなどして、保険金請求をすることになりますが、申出により必要書類を一部省略することも可能です。保険会社が分かっている場合は、各保険会社にご連絡下さい。 ○ また、保険契約の有無などを確認する制度もあります。今回、災害救助法が適用された地域において被災された方であれば、生命保険については、生命保険協会の「災害地域生保契約照会センター」(〔電話〕0120-001731 月曜日から金曜日(祝日を除く)、9時から17時まで)で確認することができます。 ○ 同様に、損害保険については、日本損害保険協会の「自然災害等損保契約照会センター」(〔電話〕0120-501331 月曜日から金曜日(祝日を除く)、9時15分から17時まで)でご確認ください。 ※「自然災害等損保契約照会センター」は、令和6年(2024年)1月9日現在、土〔曜日〕・日曜日、祝日・休日も照会を受け付けています。 Q〔質問〕3. 災害により死亡した者の死亡保険金の受取人は誰になるのでしょうか。 A〔回答〕 死亡保険金は、保険契約で死亡保険金の受取人と指定された方に支払われます。 〇 受取人が死亡し、新たな受取人の指定がなされない間に被保険者が死亡した場合については、約款をご確認ください。 〇 受取人の法定相続人が保険金請求権を有する場合もあります。詳しくは、保険会社に確認するとよいでしょう。 45ページ 13. その他 Q〔質問〕1. 今回の災害で預金通帳や印鑑を紛失しました。通帳等がなければ預金を引き出すことはできないのですか。 A〔回答〕 身分証明書などで本人確認ができれば、金融機関は払い戻しに応じます。 ○ 自然災害の被災者に対して、各金融機関は、通帳等がなくとも身分証明書等で預金者本人であることを確認できれば、払い戻しに応じます。 ○ 詳しくは、各金融機関にお問い合わせになってください。 Q〔質問〕2. 被災した他人の家屋の中から生活用品を持ち去った場合には、罪に問われるでしょうか。 A〔回答〕 法律上は窃盗罪などに問われる可能性があります。 ○ 誰が管理しているか判明している場合には、勝手に持ち出すと窃盗罪に問われる可能性があります。 ○ 被災状況がひどく、誰が管理しているか判明しない場合でも、勝手に持ち出すと遺失物等横領罪に問われる可能性があります。 Q〔質問〕3. 今回の災害により、民事調停の申立手数料が免除されると聞きました。 A〔回答〕 今回の災害に起因する民事に関する紛争について、令和8年12月31日までの間に、民事調停を申し立てる場合は、申立手数料の納付が免除されます。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 ○ この措置の対象となる方は、災害が発生した令和6年1月1日に、災害救助法が適用された地域に住所、居所、営業所又は事務所を有していた方です。 ○ 詳しくは、最寄りの裁判所にお尋ねになるとよいでしょう。 Q〔質問〕4. 今回の災害により、運転免許のような許認可等について、存続期間(有効期間)が延長されると聞きました。 A〔回答〕 例として、運転免許の有効期間、犯罪被害者等給付金の申請期間、猟銃等の所持の許可の有効期間等が、令和6年6月30日まで延長されます。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 ○ この措置の対象となる方は、災害が発生した令和6年1月1日に、災害救助法が適用された地域に住所、居所、営業所又は事務所を有していた方です。 ○ 存続期間(有効期間)が延長される許認可等の一覧については、総務省特設ページでご確認ください。 Q〔質問〕5. 今回の災害により、事業報告書の提出や薬局の休廃止等の届出のような履行期限のある法令上の義務が履行できなかった場合は、どうなるのでしょうか。 A〔回答〕 今回の災害が原因で、本来の期限までに各種届出などの法令上の義務を履行できなかったと認められた場合は、令和6年4月30日までに履行することで、行政上及び刑事上の責任を問われません。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 46ページ ○ 今回の災害が発生した令和6年1月1日以後に法令に規定されている履行期限が到来する義務が対象となります。 ○ 詳しくは、法令に基づく届出等の担当窓口に相談するとよいでしょう。 Q〔質問〕6. 私は外国人です。今回の災害により、本来定められている期間内に在留諸申請をすることができませんでしたが、どうなるのでしょうか。 A〔回答〕 今回の災害が原因で、在留期間内に申請ができなかった方については、当面の間、在留期間を経過した場合であっても個別に手続きを行います。 ○ 今回の災害は、特定非常災害に指定され、被災者の権利利益の保全を図るために、特別な措置が講じられています。 ○ 在留諸申請の受付期間や手続について、詳しくは、お近くの地方出入国在留管理局に相談するとよいでしょう。 ○ なお、被災したことで本来の住居地から一時的に移動や避難をされた方については、現在の滞在先を管轄する地方出入国在留管理局で申請することができます。 以上で、「法律問題Q&A 令和6年能登半島地震 更新:令和6年1月17日」のテキスト化を終わります。 製作 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 製作協力 テキスト化堺 製作完了 2024年3月